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呂布と曹操(曹操は語る) 魏武帝注孫子翻訳に当たって6

呂布曹操といえば、劉備中心に描かれている三国志演義では、最強のボスキャラと言っても過言ではないでしょう。

 

この2人の大ボスキャラについて、片方の当事者である曹操が、「魏武帝孫子」で非常に意味深な発言をしております

 

この部分はあまりにも面白いので、もうあと二週間後程度で発売予定の、電子書籍版「魏武帝孫子:兵法武経七書」を購入していただけた方だけ読めるようにしようと思っておりました。

しかし、あまりにも翻訳作業が遅くなってしまったために、今回、この部分についてブログで記事にすることにしました。

 

武帝孫子、謀攻第三《衆寡の用》にはこのような記述があります。

(《~~》は私が独自に付けた章題、以下本文では、【~~】が曹操の注釈、(~~)は私の補足) 

 

◆書き下し文◆

故に兵を用うるの法は、十なれば則(すなわ)ち之を囲み、【十以て一に敵すれば、則ち之を囲む。是(こ)れ、将の智勇等しく、而も兵の利鈍(りどん)も均(ひと)しきを謂うなり。主弱く客強きが若し。操の倍兵以て下邳(かひ)を囲み、呂布を生きて擒(とりこ)にする所以(ゆえん)なり。】

 

◆現代語訳◆

 このために兵を用いる一般的な基準では、敵に対して十倍の兵力があるのならば敵を包囲する。【十倍の兵によって一の兵を敵とするならば、これを包囲する。これは、将軍同志の知勇といった能力が等しく、その上で兵士たちの志気も同じ場合のことを言っているのである。これではこちらが弱く敵が強いかのようである。私曹操は倍の兵で下邳を包囲して、呂布を生きたまま捕えたのであるが、それはこのためである。(私と呂布の能力の違い、また兵士の志気の違い、この二つの違いがあったから、十倍でなく二倍の兵でも包囲をすることができた。)】

 

これがどうゆうことかといいますと、まず、孫子は「敵に対して十倍の兵力があるならば包囲という作戦を用いる」のが兵法における基準だと言っています。これはなんとなく分かることですね。

例えは、一本のマッチを同じマッチで囲もうとすれば、少なくとも三本以上、「囲んだぞっ!」くらい囲もうと思えば、十本くらいのマッチが必要であるからです。

 

ですが、これはあくまでも、「物量のみで考えた場合」のことです。実際の戦場で要因はこれだけではありません。

 

だから、曹操は「将軍の能力の差や、兵の士気の差によっては、敵を包囲するのに、必ずしも十倍の兵力が必要とは限らない」と注釈を入れているのです。

しかも、それをさらにわかりやすく解説するために、「十倍もの兵を使わないと包囲ができないとは、いかにもこちらが弱いような話ではないか」とし、

さらに実例として、「オレにかかれば、呂布ごときのヘナチョコ武将は、包囲するのも二倍の兵力で十分だった」と言っているわけです。

 

つまり、孟徳さんは、この2人のボスキャラ比較について、「オレの圧勝」と言っているわけです。

 

ところで、あの有名なアクションゲーム「三国○双」では、呂布はほぼ最強ということになっています。しかし、実際はそうでもなかったというのが曹操の考えであり、事実であったのでしょう。それを裏打ちするかのように、「三国○双」でも、呂布の軍師であった陳宮が「また一人で出おって」と一人でつぶやいて、呂布を見捨てる場面があります。(ゲームをプレイしたのは十年くらい前ですが、その場面だけなんか覚えていますw)

 

孫子と並ぶ兵法書として有名な『呉子』論将第四にも、「凡(おおよ)そ、人の将を論ずるは常に勇において観(み)る。勇の将におけるは乃(すなわ)ち数分の一のみ。夫れ、勇者は必ず軽く合う、軽く合いて利を知らざれば未だ可ならざるなり。」とあります。この言葉こそ、まさに呂布の弱点をうまく言い当てた言葉ですね。詳しくはこちら(サンプル文書とページ最後にリンク有り)でお確かめください。

 

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