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平田 圭吾のページ

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翻訳本 魏武帝註孫子 少しずつ公開2 『魏武帝註孫子序』

武経七書 魏武帝注孫子

※お詫び 今まで魏武帝「注」孫子と表記しておりましたが、魏武帝「註」孫子が正しい表記でした。(意味は同じですのでその点はご安心ください、なお今までの記事の表記も改めません。)

 

※今回は土日をまたぐこともあり、本書の編集とは違いますが、曹操が書いたとされる部分を公開します。また、いやらしいやり方ですが、せめてサンプル版をダウンロードして頂くため、現代語訳の一部を敢えて公開しません。悪しからずご了承ください。(ただし、書き下し文と解説をよく読んでいただくと、なんとなく意味が分かるようになっています)

 

※ブログではふりがな表記が「フリガナ(ふりがな)」となっているため読みにくいですが、本来は漢字の上にフリガナがあります。

 

まだ読んでない方はコチラ↓からどうぞ

翻訳本 魏武帝註孫子 少しずつ公開1 『はじめに』 - 平田 圭吾のページ

 

武帝孫子

 

◆書き下し文◆

操聞く、上古(しょうこ)に孤矢(孤天)の利有りと。論語に曰(いわ)く、兵足ると。

尚書(しょうしょ)八政に曰く、師(いくさ)と。

易に曰く、師(いくさ)には貞(ただ)しくして丈人(じょうじん)なれば吉なりと。

詩に曰く、王は赫(かく)として斯(これ)怒る、ここに其(そ)の旅を制すと。黄帝(こうてい)湯武(とうぶ)は、咸(かん)じて(咸(みな))干(ほこ)戚(まさかり)を用い、以て世を済(すく)うなり。

司馬法(しばほう)に曰く、人故(もとより)人を殺す、之(これ)を殺して可なりと。武を恃(たの)む者は滅び、文を恃(たの)む者は亡(ほろ)ぶ。(恃武者滅(しむしゃめつ)、恃文者亡(しぶんしゃぼう))夫差(ふさ)・偃王(えんおう)(夫(そ)れ偃王(えんおう)の差(たが)う)は是(こ)れなり。

聖人の兵を用うるは、戢(おさ)め而して時に動き、已(や)むを得ず而して之を用う。

 

吾(わ)れ兵書戦策を見ること多し。孫武の著(あらわ)す所は深からん。審(つまび)らかに計(はか)りて重く挙げ(審計重挙(しんけいじゅうきょ))、明らかに尽くして深く図(はか)り(明尽深図(めいじんしんと))、相い誣(し)うべからず。

而(しか)るに世人未だ之を深く訓説し亮(あき)らかにせず。況(いわん)や文は(況文(きょうぶん))煩(わずら)わしく富み、世において行われる者、其の旨要(しよう)を失う。故に撰(えら)びて略解を為(な)す。

 

◆現代語訳◆

 私(曹操)は、「昔から残っている言葉には、一筋の矢(が将軍の命さえ簡単に奪(うば)ってしまうか)のような鋭(するど)さがある」と聞いている。

論語』には、「兵が足る(ことが国家が国家として成立するための条件だ)」と書かれている。

 最古の歴史書である『尚書(しょうしょ)(書経)』の(国の政治に必ず必要なことが挙げられた)八政という部分には、(その必要なものの一つとして、はっきりと)「師(いくさ)」と書かれている。

 占術書である『易経(えききょう)』には、「師(いくさ)においては、慎ましい正しさがあり、経験豊富でそのことに熟達した人が事に当たれば、得ることもある」とある。

 また、最古の詩書である『詩経』には、「王は燃えるかのように、ここに怒りを露(あら)わにし、ここにその軍旅を制した」とある。黄帝(こうてい)・湯王(とうおう)・武王といった(過去に天下を統一した)王たちは皆、人々の心を汲み取って矛(ほこ)やマサカリといった武器を手に取り、そうすることで世を救ってきたのである。

 

非公開部分(サンプルをダウンロードしてお読みください、なおここで話題とり、本編でも引用が多い『司馬法』は次回翻訳する予定です。)

 

 聖人の(最も理想的な)兵の用い方とは、(普段から気を遣(つか)って何事も)整え治めておいて、その時が到来してから動くのであり、やむを得ない事情があって、(仕方なく)兵を用いるのである。

 

非公開部分(サンプルをダウンロードしてお読みください)

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◆解説◆

 ここは、曹操が『孫子』に注釈を付けるに当たって書いた部分です。今の本で言うならば「はじめに」に当たる部分と言えるでしょう。

 その上で、この「序」は、大きく分けて二つの内容から成り立ちます。つまり、前半には「国家運営から見た兵法の重要性」が、後半には「自分(曹操)が孫子に注釈を付ける理由」が、それぞれ書かれております。

 この部分について考えてみる上では、曹操の生きた時代のことを考えてみなければなりません。そこで、曹操が生きた時代ですが、これは皆さんご存知の通り漢王朝の衰亡期です。また漢王朝(特に後半)は、儒学が盛んに扱われた時期であります。

 このために、「国家運営から見た兵法の重要性」が、儒学の本からの抜粋によって権威付けられております。つまり、『司馬法』を除いては、全てが現在の儒学の経典『四書五経』からの抜粋となっているのです。このことにつきましては、曹操が元は漢王朝の役人であったことを考えると、とても納得できることです。

 また、書き下し文を読んでいただくと、(括弧)で、挿入してある部分があります。こういった所は、別の読み方もできると思ってください。

 例えば、「孤矢」は、「孤天」と読めないこともないです。なぜなら、昔、書物は書き写しで伝わっていたためです。誰かが墨を飛ばしてしまい、天に点がついて、天が矢になってしまう可能性も十分考えられます。少なくとも私にはそのように見えました。

 また、夫差(ふさ)とは、呉の七代目の王で、臥薪嘗胆(がしんしょうたん)(過去の苦しみを忘れないために、薪(まき)の上で寝て、苦(にが)い肝(きも)を嘗(な)めること。夫差は臥薪(がしん)をしていた人)という故事でも有名な人です。定説では、この夫差を「武を恃む者」の象徴として読むようです。しかし、「夫差、偃王(えんおう)」を「夫れ偃王(えんおう)の差(たが)う」と読んで、「偃王(えんおう)(資料は乏(とぼ)しいのですが、文徳で人々の支持を得て国を作るも、軍備をせずに、時の権力者に武力によって亡ぼされた人)が間違っていたのは」と読めないこともないのです。

 つまり、曹操がうまく掛詞(かけことば)(一つの言葉、ここでは「夫差」で二つの意味を表現すること)をしたとも考えられるのです。我々の知る曹操という人は、こういった遊び心や一種の余裕を持っている人だったのではないでしょうか。

 さて、後半では、曹操の『孫子』への評価が書かれています。曹操が多く同じような書を読む中で、『孫子』に書かれていることが最も奥深いと言っています。さらに、褒(ほ)め言葉として、「審(つまび)らかに計(はか)りて重く挙げ(審計重挙(しんけいじゅうきょ))、明らかに尽くして深く図(はか)り(明尽深図(めいじんしんと))、相い誣(し)うべからず。」と言っているわけですが、ここで、審計重挙(しんけいじゅうきょ)、明尽深図(めいじんしんと)と、括弧で表記しているのは、ただ単に「カッコいい」からです。この漢字が書かれた書が立派な額に収められ、あるいは掛け軸となって、部屋に飾られていたらカッコいいと思いませんか。

 また、このカッコいい文体こそが、曹操が書いた原文であるのです。曹操は詩人としても名高いですが、その曹操の良さを分かっていただくため、そのままでも意味が分かりそうで、かつカッコいい曹操注の原文は、私の裁量でこのように(括弧(かっこ))で表記して、書き下し文に反映していきます。(付録として私の抜粋したものを巻末にまとめました。)

 最後に、この「魏武帝孫子序」は、曹操の書いたとされる文で、曹操が「主」となっております。しかし、この後の部分に関しては、曹操の書いたものはあくまでも「従」です。そうです。あくまでも『孫子』に書かれている事自体が「主」であり、主役なのです。このために、曹操は脇役となっております。

 だからと言って、勇ましいナンバーワンの曹操が好きな人も、がっかりする必要はありません。脇役に徹する曹操の注を読むことで、『孫子』を理解する助けとすることができます。そればかりか、脇役にもなれるからこそ、曹操は、あれほどの偉業を成すことができたのだし、また、遠く時間の離れた我々を魅了してやまないのだと分かっていただけるはずです。

 孟子によれば、時の離れた所に居る優れた友のことを「尚友(しょうゆう)」と言います。優れた故人と尚友になるためには、その人の生きた時代背景を知り、その人が読んだ書物を読み、その人のしたことを知り、とにかくその人のことを知らなければなりません。曹操と尚友になり、「『孫子』を理解するために、曹操に力を貸してもらう」そのように読んでいただくと、得ることも多いのではないでしょうか。

 

翻訳本 魏武帝註孫子 少しずつ公開1 『はじめに』 - 平田 圭吾のページ

翻訳本 魏武帝註孫子 少しずつ公開3 『この本の読み方』 - 平田 圭吾のページ

翻訳本 魏武帝註孫子 少しずつ公開4 『始計第一』 - 平田 圭吾のページ

 

解説的な読み物の記事はコチラ(6まであります。リンク先記事の一番下からどうぞ)

 

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