翻訳本 三略 少しずつ紹介5 「天地流転」
《天地流転(るてん)》
◆書き下し文◆
端末(たんまつ)未(いま)だ見ずして、人は能(よ)く知る莫(な)し。天地は神明にして、物とともに推(お)し移り、変動に常無し。敵に因(よ)りて転化し、事先を為(な)さず、動き而(しか)して輒(すなわ)ち随(したが)う。
故(ゆえ)に能(よ)く無疆(むきょう)を図(はか)りて制し、天威を扶(たす)けて成し、八極を康(やす)んじ正し、九夷(きゅうい)を密に定む。此(か)くの如(ごと)き謀者、帝王の師と為す。
◆現代語訳◆
末端の具体的な現象を見もしないで、人はよく知るということはできない。天地とは不可思議で人智の及ぶものではなく、(そうでありながら、目に見える)物を伴(ともな)って推し移っていき、その変動には常が無い。(ならば、)敵の動きを拠(よ)り所として次々と(戦場それ自体を)変化していき、(こうしてやろうと)先んじて事をなすのでなく、動いてからそれに従うようにする。
このようにするからこそ、限りの無いものに線を引いて制し、天の威を助けてこれを成就(じょうじゅ)させ、八極を安んじて正し、九夷を密に定めることもできる。このような謀(はかりごと)をする者は、帝王の師である。
◆解説◆
ここに、「事先を為さず」とあるが、これは「さかしらなことをするな」といった、いわゆる「老子くずれの不知のすすめ」ではない。
そもそも、準備や用意もせず、うまくことを進めようというのは無理な話であり、あり得ないことである。ここで説かれているのは、準備や用意をしていても、それでも想定外のことは起き得る、ということである。
八極とは、東西南北の四方と、その中間の四隅のこと。ただし、八と言えば、易経の八卦(はっけ)であり、「当たるも八卦、当たらぬも八卦」という言葉もあるように、森羅万象というような暗示もある。
九夷は、畎夷・于夷・方夷・黄夷・白夷・赤夷・元夷・風夷・陽夷のこと。ただし、『孫子』にも、九地、九天などの編があるように、九は、音が急や窮に通ずることから、種々雑多の急な変化とか、窮まりのないものという意味合いがある。ここであると、夷は、野蛮な他民族のことであるから、どこから起こるか分からない粗野なこと、程度の意味になる。
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