平田 圭吾のページ

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『ルポ トランプ王国−もう一つのアメリカを行く』 (岩波新書) を読んで

本の内容

いい本だった。

内容としては、タイトルの通りで、トランプ支持者への地道な取材をまとめたもの。トランプを支持した人の気持が克明につづられており、大変興味深く面白い内容だった。

 

時期や期間

取材の期間は、2015年11月で、大統領選が2016年の11月なので、約一年間の取材の記録の集大成というこになる。
ちなみに、今調べてみたところ、2016年5月に共和党の別の候補が、大統領選から撤退を決めたことにより、トランプ氏が共和党の正式な候補となった。なので、党内選挙は行われていない。
この時の有権者の反応についてはあまり本書に書かれていなかったが、トランプ氏が立候補を表明した2015年6月から、共和党内の支持率は1位だったようで、共和党の正式候補になることは、ほぼ確実視されていたようだ。

 

主な取材地

また、主な取材地は、アメリカでラストベルト(錆びついた鉄の一帯)と呼ばれる地域である。
取材の地域に共通することは、少なくとも都市部ではない、かつては工業地帯として栄えていた、労働組合の関係でトランプ登場までは民主党支持者がほとんどであることがある。
大統領選では、この地域での得票がトランプ氏の当選につながった。

 

日本とアメリカの違い

本を読んだ上での感想や分析を書く上で、日本とアメリカとの違いを述べなければなるまい。この違いを述べることで、いろいろな疑問も解けてくる。

 

アメリカは広い

まず一つ目が、アメリカが広大であることだ。これは地図を見れば一目瞭然であるけれど、実際の影響はかなりすごい。というのも、恐らく我々日本人の知りうるアメリカの情報や印象は、実のところ、ワシントン・ニューヨーク・ロサンゼルといった都市部のものがほとんどであるようなのだ。また、地域間格差も日本のそれとは桁違いである。この証拠として、我々日本人は、トランプの支持者が本当にいるのか?と疑問に思うような報道しか目にしなかった。しかし、この本を読むことで、これが誤解だったことがよく分かる。

 

偉大なアメリカは二昔前

次に二つ目が、偉大なアメリカとは1950~70年頃のことであることだ。日本が一番良い時代だったのは、恐らく1980年以降のバブル崩壊までごろだから、だいぶ年代が違う。だから、トランプ氏が言う偉大なアメリカ、アメリカファーストとは、この時代のことであり、現在の現役世代の知らない時代である。こういったフレーズがトランプ氏から出ることと、彼の生年が1946年であることは、かなり関係が深いだろう。

 

アメリカンドリームへの誤解

最後三つ目、アメリカンドリームとは、億万長者になることではなく、誰でも一生懸命に働けば、家を買って、毎年バカンス(家族旅行)に出かけ、老後も安心して暮らすことであった。だから、出自に関わらず、現代日本で言う所の普通の暮らしができれば、これはアメリカンドリームの実現なのである。また、このアメリカンドリームを実現したのが、いわゆるミドルクラスであり、日本で言う所の中間層である。

 

まとめ

それで、今回トランプ氏が大統領選で勝利した理由は、上に挙げた三つのことにあるのだ。

つまり、日本人の目に入らない田舎で、偉大なアメリカを懐かしみ、ミドルクラスからの転落を恐れた人々が、トランプ氏に投票したし、彼らがトランプ氏の熱狂的な支持者であったのだ。
取材に応じたトランプ支持者の人の身の上もかなり同情するものが多い。自分の町で新車を買えない人、仕事を三つ掛け持ちしても暮らしが楽にならない人、兄弟が麻薬中毒で死んでしまった人、仕事が見つからず都市部に出ていく若者の後ろ姿を見送るだけの人、約束していたはずの仕事が急になくなって家や土地を手放した人、給料は減る一方で増える期待がない人、など、そこには、哀愁・悲哀・郷愁・不満・不安がいつも見える。

それで、私が読んでいて思ったことは、これは日本と同じだ、あるいは、日本の未来だ、ということだ。決して他人事ではない。日本では表面化していないけれど、いずれ「ミドルクラスの転落」とそれに対する社会不安は、日本でも近いうちに表面化するだろう。

 

ルポ トランプ王国を入手してアメリカの実情をしっかり知る

 

また、他の詳しい分析は、前にも一度記事にしたので、興味のある方は読んでいただければと思う。ここに書いた分析と、この分析を合わせれば、トランプ大統領当選についてのことは、ほぼ網羅できるものと思う。

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