平田 圭吾のページ

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『「心の不安」が消える本~幸せになれる人、わざわざ不幸になる人~』 (大和書房) を読んで

良い本であった。

一見すると、著者の意見が書かれているようであるが、中身を読み進めていくと、実は、「ロロ・メイ」という人の不安理論を説明する本であった。最後の「不安に負けない心の持ち方」の部分は、著者の意見と思う。ちなみに著者は、テレホン人生相談で有名な加藤諦三氏である。

文章自体は、短文形式、あるいは散文形式で、前後の繋がりがあまり重視されていない感じがした。あとがきにも書かれているけど、この「不安理論」について書いていったつながりのない短めの文章を、編集者の方がそれなりにまとめたものと思う。

 

不安理論とはどんなものか

この不安理論自体は、かなり当てはまる部分があると思う。しかし、それだけで全てを説明するのは無理だなぁと思った。これは、不安理論が優れていないからという理由でなく、人間の心が複雑であるから、ひとつの理論だけでは到底説明できないという意味である。

それで、この不安理論だが、まず前提として、「人は人との繋がり」を求めるということになっている。これが満たされない時に、人は不安を感じるようになる。また、この人との繋がりが欠落していると感じる根源は、子供時代の人間関係にあり、簡単に解消できることではない。

 

不安とは何か

次に不安というのが具体的にどのようなものかと言えば、例えば、毎日10万円ずつお金を使って生活する人がいて、この人が「明日は8万円しかお金を使えなかったらどうしよう」となる心理状態が不安ということになる。だから、必要以上のものがあるのに、それ以上を求める「貪欲」の契機になるが、この「不安という心理状態」ということになる。

 

不安は敵意になる

また、不安のある人は、これが敵意になって現れると言う。つまり、不安をかき消すために、誰かをいじめたり攻撃したりして、優越性を感じ、これで不安を一時的に忘れるのである。あるいは、攻撃することそれ自体が、その人にとってのコミニュケーションであり、そうすることで、人との繋がりを感じるともある。いろんな意味で依存するのだ。

アドラーの「劣等コンプレックス」は不安の一部ということらしい。ただし、敵意は必ず外に出て、誰かを攻撃するという形を取るのでなく、内向的に自分に向かう場合もあるということで、こうなるとうつ病になったり、本当にやるべきことから目を背けたり、体に不調が出たりするとのことである。

 

不安を避けることは幸せにつながらない

これらのことを総合して考えてくると、「はじめに」にも書かれた総合的結論、つまり、

「人は幸せになりたいのでなく安心したい、
人は不幸を恐れるのでなく不安を恐れる。

だから、幸せになりたいと思いながらも不安を見て見ぬをして安心にしがみつき、
こうして不幸になる」

ということになる。

これは確かにこの通りである。ここにもあるように、自分の不安を直視することは、人にとってかなり辛いことであり、これを見るくらいなら死んだほうがマシという人は、私の経験からも多くいる。だから、この不安理論で直接指摘して誰かを助けてあげようとすると、かなり高い確率でこちらに敵意が向かうことになる。

 

自分の不安は受け入れ難い

こういった意味で、著者の加藤氏が不安理論を実感したのも納得できるなぁと思った。というのも、テレホン人生相談に電話する人は、もうそれ以外に道はない、位に思い詰めている人で、思い詰めている人は、人の意見を聞くしかないと思っているから、素直になりやすいのだ。この心の準備ができていない人に不安理論で助けてあげようとすれば、さっきも述べたように烈火のごとく怒るだけである。

だから、この本によって不安が消えるかどうかはかなり微妙で、むしろ、はじめの方だけ読んでこの本に対して敵意を感じてしまう人はかなり多いと思う。そういった意味で、最後の「不安に負けない心の持ち方」を最初に読んでから、その後で、不安理論について自分にあてはまることを素直に受け入れるという読み方が良いのかもしれない。

 

個人的な考え

この不安理論については、かなり興味深かったので、もう少し別の本も読んでみようと思う。というのも、私の得意な中国古典だと、実効的な側面からの説得や解析が重んじられていて、人の心理状態の側面からの考察は少ないからである。あと、この不安理論は、『大学』で言えば、「止まるを知ってのち定まる有り、定まってのちよく静かに、静かにしてのち安く、安くしてのちよく慮り、慮りてのちよく得る」の止まる所を知ることと同じということになる。

また、現代の競争社会は不安を掻き立てる社会だとも書かれている。そのような側面から見ても大変に興味深い内容だった。

 

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