平田 圭吾のページ

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『自立と孤独の心理学 不安の正体がわかれば心はラクになる』(PHP研究所)を読んで

簡単にまとめると、「正体不明の不安」の大半が「分離不安」によるものであり、これは幼児期の「愛着行動」を制限されたことが原因となっているという理論を説明する本なのだが、評価するのはなんとも難しい本だった。

その理由は以下の内容を読んでいただけると分かると思う。

まず、この本の基軸は、ボウルビィという人の、愛着行動、分離不安理論となっている。

 

具体的な「正体不明の不安」

この愛着行動や分離不安を説明する上で、まずはこれがどのような形となって現れるかを説明しなければなるまい。

 

そこで、人には正体不明の不安がある場合があるのだけど、これは

「怒りを無意識にも抑圧してしまう」
「家を離れることそれ自体に後ろめたさみたいなものを感じる」
「親しい人(主に恋人や配偶者)と一緒にいるのが苦痛だが離れることができない」
「人に気に入られるためならなんでもする(評価基準が自分にない)」
「何もしないというということができない(何もしていないと不安になってくる)」
「1人で何かしていることを楽しめない」
「自信がない」

といったような具体的な心情や行動となって現れる。

これらの「正体不明の不安」による困った感情や行動は、「愛着分離」から生じているのであると言う。

 

愛着行動とは何か

愛着行動とは、幼児期に母親に対して「愛着」しようとする「行動」のことで、具体的には、母親の膝の上に座りたい時に座ること、母親から無条件に受け容れられること、母親から拒否という制裁を受けないこと、である。

しかし、愛着行動を拒否された幼児は、母親から「分離」される「不安」を感じることになる。

このような幼児期の「不安」が「正体不明の不安」となって、その人に成人後も上に示したような悪影響を及ぼすというのが、この愛着行動、分離不安理論ということになる。

 

幼児期のことなので本人は必ずや無自覚

それで、この成人後の「分離不安」は、上にも書いてきたように「正体不明」であり、ほとんどの人は気づいていないという。
確かにそうである。幼児期のことを鮮明に覚えている人は、伝記や伝説上でしか出てこない。ほとんどの人は、幼児期のことなど覚えていないのだ。
また、厄介なことには、「表面的には子供を可愛がっている親」も、無意識的には子供を拒否している場合があると言う。分かりやすく言うと「異常に熱心な教育ママ」のことである。これは極端な例だから、母親が子供を支配しようとしていることが分かりやすいのだけど、これも程度問題で、表面的には分からない場合もある。

こういったわけで、「分離不安」を抱えている人は、ほぼ必ずその不安が正体不明となるわけである。

 

本の全体的な構成

これで、この本の基軸となる理論はだいたい理解していただけたと思うが、著者の加藤諦三氏もこの「正体不明の不安」に長年苦しめられていたということらしい。その経験者たる氏が言うには、この「正体不明の不安」の正体を知ることで、冒頭に示したような困った感情や行動を改善していくことができるらしい。

本の章題としては、
1.なぜ1人でいると不安になるか
2.相手を所有しようという気持ちには依存心が潜んでいる
3.しがみつくから相手に縛られる
4.人に嫌われたくないのは自分に自信がないから
5.なぜ自分の本当の心を偽るのか

となっている。

内容はまとまっていて、基軸となる理論の具体例や仕組みが、うまく説明されており、論理破綻などは起こっていないし、同じことが言葉を変えて何度も書かれており、丁寧でわかりやすい本であると思う。

 

個人的な意見

しかし、ここからが私の意見であるのだが、「納得はできるのであるが、スッキリしない」のである。というのも、恐らく、私はこの「分離不安」を経験していなくて、この理論が当てはまらないからである。だから、正直なところ、理論を理解はできるが分からないのである。

だから、分離不安が当てはまる人が読めば、かなりの良著かもしれない。だが、そうでない人、あるいは、この事実を受け容れられない人は、この本を読んでも私と同じような気持ちになると思う。

また、そもそも、精神的不安定の原因を全て「幼児期の成長過程」にもってくるのは無理がある。人は、その顔が皆違うように、生まれた時から性格も違うのであり、この点において、この理論には一般性がない。それに、ここに書かれているような困った感情や行動、またそのような心理状態は、誰にでも少しは備わっているものであり、「幼児期以外の体験」からも、「分離不安」が起こる可能性は十分にあり得る。また、「分離不安」以外の要因から、このような心理状態になる可能性も十分にあり得る。

このように書くと、加藤氏がいかにも無能のように思われるかもしれないが、それもそうではない。あとがきを読んでみると、この特殊性をよく分かった上で、この特殊な状況に当てはまる人だけを対象に、この本は書かれているのである。

それが証拠に、図書館から借りてきたこの本には、「異常な香水(アロマ)の臭い」が染み付いているし、ところどころ「ページを半分にまで折り曲げた跡」や「不自然な紙のゆがみ」がある。この本を読んで、大きく心を乱している人がいることは間違いないのだ。

また、当てはまらない人にとっても、これを読むことで「変な人」を理解する手助けになるし、「あの人もそういったかわいそうな幼児期があったのだろう」と思うことで、心が広くなる可能性もある。

このようなわけで、「評価が難しい」のであるが、また、同時に「一度は読む価値のある本」であると思う。

この本を入手して分離不安について詳しく知る

 

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