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『孫文――近代化の岐路』 (岩波新書) を読んで

孫文の一生についてまとめた本で、うまくまとめてあると思う。


ただ、孫文が革命家であったということもあり、どうしても、「本人の事跡」「思想の変遷」「社会の状況」の三本柱で話を進めなければならず、この点で話がわかりにくくなっていた。また、紙幅も足らないなぁと思った。


孫文革命文集 (岩波文庫)と、中国の当時の歴史を扱った本と合わせて読むとさらに理解が深まると思う。これらと複合で読むということなら、十分良著と言えるだろう。

孫文の生い立ちや事跡

三本柱のひとつ、孫文の事跡であるが、まず孫文は12歳から4年間、ハワイで商家として成功した兄のもとで過ごす。その後、中国に戻り、医学学校を出て薬局を営むも、当時先端技術であった西洋医学を駆使したことにより、周辺のやっかみを勝って、うまくいかなくなる。


そのときにできた知り合いなどと、革命を志すようになり、ハワイで資金調達後、武力蜂起する。これがもとで亡命の身となり、その後、16年を日本を含む海外で過ごすこととなる。亡命生活ながらも、革命資金を集めたり、小冊子を配布して革命思想を宣伝していたようだ。


そんな中、中国本国で辛亥革命が起こり、これを機に本国に帰ったのであるが、辛亥革命孫文に影響された人が、孫文の直接の指示無く起こしたものであり、こういった経緯もあって、孫文は臨時大総統となった。


しかし、政敵袁世凱の躍進により、革命は潰え、自身もまた亡命生活を余儀なくされる。その後、政変により、また中国に戻るのであるが、地盤を作ることに失敗し、志は半ばで亡くなることとなる。タバコも酒もしなかったらしいが、亡命生活の苦労がたたり、59歳の生涯を閉じることとなった。孫文の死体は、防腐処理がされて現在は台湾にあるらしいが、防腐処理は孫文の遺言らしい。

 

なぜ孫文は注目されたのか

正直なところ、孫文のこの事跡だけを追ってみると、地盤なしで根無し草の孫文が、どうしてこれほど有名になったのかと、誰もが疑問に思うところであると思う。


しかし、これは孫文の「放浪生活」にひとつの答えがある。というのも、中国には、放浪生活の後に権力得て、治世をもたらしたという超有名で人気の高い人がいるからだ。


まず日本でも一番有名なのが、三国志劉備である。劉備の蜀は諸葛亮の指導の元、「北伐」を繰り返すわけであるが、孫文清朝の打倒、北京中央政府打倒という「北伐」を繰り返し起こしている。孫文の出身地が南にあり、地盤がなかったと言えど、臨時政府は南京が拠点であったりと南北での対立がしばしば表面化していたからである。ただし、「北伐」は10回以上も失敗したことになる。


また、春秋戦国時代の斉の桓公や晋の文公も、孫文と同じく、放浪生活を余儀なくされた後で、晴れて君主となり、その後治世をもたらした人物である。


このような歴史的背景と、社会への不満と新しい体制への期待があって、孫文への人気と期待は、否応なしに高まっていたのだろうと思われる。


もちろん、孫文自身、ハワイにいたこともあって英語ができたこと、かなり読書をしていたようで文才があったこと、亡命生活で中国人では想像できないような新しい社会体制の青写真を持っていたことも、孫文に人気が集まった理由ではあると思う。しかし、それ以上に、劉備などがいなかったら、孫文がこれほど注目され、期待されることはなかったであろう。

 

孫文の思想

孫文の思想は、この本で読む限りだと、かなり現在の共産党一党独裁体制に近いものがある。ただ、孫文自身の理想としては、アメリカのような連邦制や、共和制民主主義を目指していたようだ。また、独裁的な手法も一時的に已むを得ず取るものということで、肯定してたらしい。


晩年ころには、毛沢東もといソ連コミンテルン共産党と連携体制を取るわけであるが、全く同じというわけではなく、一線は画していたようである。それでも、現在から見るとほぼ一緒としか思えない社会体制の思想ではある。

 

当時の社会状況

また、当時の社会の状況について、中国では、中央と地方に独特な力関係の均衡があり、この本において、それは、地方権力の「放」と中央集権の「収」という対立軸でうまく説明されている。この「放」と「収」のバランスが崩れ、「放」側にいくと革命的な動きが起こり、「収」側に傾くと復古体制的な動きが起こるということになる。

 

なんだかんだで、孫文が現代中国に及ぼした影響はけっこう大きいと思う。隣国中国を理解するという観点からも読んで損はないと思う。

 

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