呉子より 用兵の害は猶予が最大にして、三軍の災いは孤疑に生ず
「用兵の害は猶予が最大にして、三軍の災いは孤疑に生ず」
「用兵之害猶予最大、三軍之災生於孤疑」
『呉子』の治兵第三にあるこのフレーズは、兵法書としての『呉子』の特色を一言で表している言葉と言えるでしょう。それととともに、『呉子』の中でも比較的有名な言葉となっております。
今回は、皆さんに『呉子』を知っていただくため、この部分の書き下し文などを公開します。
治兵第三 《第四章 猶予最大》
◆書き下し文◆
呉子曰く、凡そ兵戦の場とは、屍(しかばね)に止まるの地なり。必死は則(すなわ)ち生き、幸生(こうしょう)は則ち死す。
其れ善く将たる者は、漏船(ろうせん)の中に坐(ざ)して、焼屋(しょうおく)の下に伏するが如(ごと)し。智者をして謀(はかりごと)を及ばざらしめ、勇者をして怒りに及ばざらしめて、敵を受くるも可なり。
故に曰く、用兵の害とは、猶予(ゆうよ)が最大にして、三軍の災いは孤疑(こぎ)に生ずと。
◆現代語訳◆
そもそも戦場とは、屍(しかばね)となることが当たり前の場所なのだ。だから、死に物狂いで戦った者が生き残り、生きることに固執していれば死んでしまうこととなる。
戦場がこのような過酷な場所であるからには、この戦場の最高責任者である将軍は、船底に穴が空いている船に座って、燃えている家の縁の下に居ると思わなければならない。このような心構えがあってこそ、敵の智者の謀に引っかからないのであり、敵の勇者を奮戦させないこともでき、こうしてやっと敵を受けることができるのだ。
だから言うのだ。用兵の害は余裕をかまして油断することが最大のものであり、軍隊の本当の災いは将軍が孤立して皆がお互いを疑うことから始まると。
◆解説◆
ここでは、油断大敵ということ、また、孤立と猜疑の災いについて書かれています。船底に穴が開いている船に座っているのに、余裕で構えて「船は沈まないだろう」と思えば船は沈み、燃えている家の縁の下に居るのに、お互いがお互いを疑って力を合わせないならば、皆死んでしまうこととなるでしょう。緊張感がないところ、人々に不和があるところには、失敗がついて回るのです。
どんな場合でも、自分の置かれている状況をよく把握し、また仲間にはそれを周知させなければなりません。とはいえ、状況が悪いのだと大げさに言えば、それは脅しとなり、それは狐疑を生み、不和の原因となるのです。よく考えなければなりません。
このように、『呉子』は、『孫子』ほどの戦略性はありません。ですが、普段からの心構えや、組織を維持するための要については詳しく書かれております。この二点は、『孫子』に詳しく書かれておりません。是非とも『呉子』も読んでみてください。下のリンクからどうぞ。
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