平田 圭吾のページ

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『金融政策入門』 (岩波新書) を読んで

入門というだけあって、金融について基礎から説いた本であるが、難しい部類に入る本と思う。

難しいが中立性の高い良著

日経新聞を隅々まで毎日読んでいるレベルの人か、あるいは大学で経済学部を出て学力を維持している人、事実国債などへの「投機」に身を投じている人でないと読みこなせないかもしれない。
私は上記のどれにも該当しないけど、ある程度他の本を読んでおり、それなりの知識があったので、なんとか読み切ることができた。

本の内容としては、アベノミクスが発効したばかりの当時に、アベノミクスの実態について解明する本である。筆致としてはかなり中立を維持しているため、余計に分かりにくい。というのも、金融や経済の理論は、相反するような理論が同時に成立することになっているからである。
だから、アベノミクス称賛でなく、かと言って、アベノミクスを卑下するわけでもなく、どっちなのか分からないという点で、あまり受け容れられない書き方と言える。しかし、普通に考えたら矛盾だらけで腑に落ちない理論が横行しているのが経済学や金融工学の世界であり、そのような前提の上でなら、これは間違いなく良著の部類に入るだろう。しかし、それでも、意味が分からなくてかなりイライラするであろうということだけは強調しておきたい。

 

アベノミクスとはどんなものだったのか

これで、この本の中立性については分かっていただけたものと思うが、その上で、アベノミクスはどうなのか、という話である。一言で言ってしまえば、この本が書かれた時、つまり四年前に、既に問題点はほぼ出ている。だから、「ほれ見ろ言わんこっちゃない」というのが現状であるとしか言いようがない。その中でも特に、最近耳にするようになった「アベノミクスの出口戦略」についてだが、正直なところ危機的状況にまで達しているものと思う。折しも選挙であるが、今回の選挙は自民党に譲って、自民党にしっかりとアベノミクスの尻拭いをさせたほうがいいとさえ思うほど、アベノミクスの後始末は大変な状況になることが予想される。

そのことを説明しようと思うのだが、恐るべき長さになると思うので、以下の記事については、覚悟して読んでいただきたい。

 

金融が難しいのは「流動性」と「流通量」があるから

まず、財政学を理解する上で重要なのは、「通貨としての流動性」について理解することである。
われわれは現金を使うのだが、現金だったら大体誰でも商品と取り替えてくれる。しかし、国債は現金より「流動性が低い」ために、誰もが商品と取り替えてくれるわけではない。これが通貨としての流動性である。

次に、お金にも量がある。例えば、おはじきで子どもたちが遊んでいて、その子どもたちのグループには、おはじきが全部で10個しかなかったとする。こういった場合に、おはじき遊びはあまり流行らないのは言うまでもないだろう。おはじきが10個しかなければ、誰か一人が飛び抜けてうまければ、この子が10個全部を独占してしまう可能性があるからだ。しかし、おはじきがそのグループに100個くらいあれば、おはじき遊びもかなり活発になる可能性がある。
これと同じ理論で、最も流動性の高い「日本銀行券(現金)」が「金融市場」にたくさんあれば、「経済」も活発化するだろう。というのがアベノミクスマネタリスト、リフレ派)の理論である。だから、流動性の低い国債を日銀が買受け、その代わりに日本銀行券(現金)を増やす、つまり通貨の流通量を増やすということなのだ。

 

流動性を高め流通量を増やすのがアベノミクスだが

しかし、これは少し考えればわかることで、因果関係があやふやな理論である。というのも、子どもたちがおはじき遊びに飽きてしまえば、いくらおはじきがたくさんあったところで、おはじき遊びは流行らないからだ。経済に当てはめれば、銀行に行けばいくらでもお金を貸してもらえると言って、必ずお金を借りる人が増えて経済が活発になる、というわけではない。

しかし、これを「異次元の金融緩和」と言ってゴリ押ししているのがアベノミクスなのだ。だが、これをおはじきで言えば、「異次元のおはじきの大人買い」をしているだけであって、かっこよく聞こえるだけで実のないこととも言える。

これでアベノミクスの概要は分かっていただけたものと思う。次に、どうして出口戦略が必要なのかということについて説明したい。

日銀はおはじきを増やすべく、国債大人買いしてきたわけであるが、その額は、既に400兆円ほどにもなっている。日本が発行した国債は、日銀が40%ほども所有しているのだ。もっと言うと、国債を発行した時に、国債を買っているのはもはや日銀くらいしかないのである。
この時点で、ほとんどの人は意味が分からなくなると思うけど、これは自分の借金(国債)を自分で引き受けている(日銀)と言っても過言ではない。予算編成における歳出で歳入から足らない部分は、「日銀が大半を持っていても、日本はいつか返してくれる」という「信頼感」のみで成り立っているのだ。

 

いくらおかしくてもみんな良ければそれでいいのが金融

しかし、どう考えてもこの時点でおかしい。自分の借金を自分で引き受けるとはどういったことか?正直私も意味が分からない。だが、ここが不思議なところで、多くの人が「これでもいい、なんとかなる」とさえ思っていれば、この不条理も成り立ってしまうのが現在の財政なのだ。
とは言うものの、もちろん限界もある。多くの人が「これはおかしい、日本は信用できない」となると、戦前のドイツのように、ハイパーインフレや、恐慌(デプレッション)に陥ってしまう。どんな悲劇が待ち受けているかは言うまでもない。
それで、このラインがどこか誰にも分かっていないというのも恐ろしい話なのだ。このまま、日銀がおはじきの大人買いを続けて、全部の国債を日銀が引き受けても、何も起きない可能性はあるし、逆に、明日にでもデプレッション・恐慌が起きる可能性もある。

 

アベノミクスの出口戦略の難しさ

このように説明すれば、誰もが「おはじきの大人買いはやめようよ、そんなことしていると破産しちゃうよ。やめようよ」と言いたくなると思う。私もそう思う。しかし、ここがさらに難しい所で、おはじきの大人買いをやめてしまうと、今度は、みんながおはじきをどんな安値でも売ろうとしてしまうのだ。おはじきは買う人がいるから値が上がるのであって、おはじきを爆買していていた人が、急におはじきを買わなくなれば、当然におはじきの値は下がる。値が下がれば、価値はない。じゃあ少しでも高いうちに全部売ってしまおう、というのが偽らざる人情なのだ。
だから、日銀が国債の買い入れをいきなりやめると、国債の値段が暴落することとなってしまう。国債が暴落するということは、円が外国為替で暴落することにつながり、円が暴落すれば石油の値段が相対的に高くなって、物価が急上昇することになる。物価が急上昇すれば、これはハイパーインフレであり、戦前ドイツの札束を積み上げる光景が、日本で再現されてしまう。

本当は以上の話に、金利の話も絡んできてさらに話は複雑なのだけど、語弊を恐れず簡単に説明すると、以上のようなものが、アベノミクスであるのだ。

 

現状はどうなっているのか

ところで、現在の日銀の国債買い入れ額は、年間ほぼ100兆円である。この本が書かれた当時、日銀の債権所有はほぼ100兆円であったのだが、四年後の現在400兆円ほど、ということで、大体計算が合う。それで、買い入れのペースを落とすこともできないのだから、少なくとも6年後には、日銀だけが国債を所有していることになってしまう。ちなみに、欧米の中央銀行との比較もこの本には詳しく書かれているのだけど、他の国はほぼ全国債の10~20%以内で保有率を留めており、アベノミクスは実に「空前絶後の異次元の状態」にあるわけである。

確かに、イギリスのBOEは現在、日本と同じ程の40%の国債を抱えているようだけど、伸び率(年間購入額と総額の比率)が違うようである。また、日本の国債総額は、GDPの2倍近くであり、GDPの80%のイギリス国債とは条件が違う。

この上で、日本の水準がやばいのかどうかは分からないけれど、もう既に「信頼感」しか担保がないのだから、私を含め、多くの人が「日本はやばい、アベノミクスで死ぬ」と言い出せば、本当に明日にでもデプレッションが起こる可能性がある。アベノミクスを声高に批判する人が少ないのもこれが理由であろう。 つまり、さりげなく「出口戦略の必要性を訴える」程度のことしかできないのだ。

だから、敢えて私は言おう。

「日本最高!まだ大丈夫だよ」(笑)

 

もしかしたら「解散騒動」とも関係している

ちなみに、最近の動向としては、アメリカの中央銀行FRBが、利上げ、つまりはアベノミクスと反対の動きをし始めている。これは放置しておくと、デプレッションにもつながりかねない円安を招く可能性がある。というのも、金利の高いドル建てで、資金を運用しようとする人が増えるからだ。

また、日銀の国債保有総額も10月を境に減り始めたそうである。案外、今回(2017.10)の解散は、こういったことに配慮してのことかもしれない。つまり、日銀の方向転換をマスコミ全部が騒ぎ出せば、デプレッションの可能性が高まる。しかし、選挙で騒いでいれば、このニュースは少なくとも陰になる。

まあ、安倍氏におかれましては、自分でまいた種であるからには、キッチリと尻拭いしていただきたい。そういえば、解散表明の記者会見では、「アベノミクスが必要だったこと」を必死に強調していた。その辺の伏線も考えると、かなり信憑性の高い話と思う。つまり、アベノミクスは必要だった、だからこれから金融混乱が起こっても、アベノミクスをやり出したこと自体は悪くなかったのだよ、というロジックの伏線という意味である。残念なことには、ただの言い逃れ、あるいは自分の心の中だけでの責任回避にしかならないのだが。

 

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