平田 圭吾のページ

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『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』 (講談社ブルーバックス) を読んで

読みやすいとても良い本

大変良い本だった。

ビットコインや通貨について興味がある人は是非とも読んで頂きたい。

ただ、難易度としては、経済(特に為替)と金融とインターネット暗号の原理について、ある程度の予備知識や、それらについて考える事の「慣れ」が必要になってくると思う。説明は丁寧で分かりやすいのだが、もともと難しいことを語っているので、理解できるかどうかは読み手次第かもしれない。

また、著者や編集者の方が大変誠実な方であることが、著述の節々から見て取れて、非常に好感が持てた。というのも、「難しいので説明は省略する」とか、「後で詳しく説明する」という記述がしっかり機能しているからだ。著者や編集者が不誠実な人間であると、かなりの確率で、これらの言葉が機能していないか、そもそも書かれていない。

レビューは当てにならない

とはいえ、最近は、自分の知識の少なさや考える能力の低さを、著者や出版社のせいにする人が増えているようで、誠に残念ではある。実際に本を読んでから、人のレビューなどを見ると、レビューがいかに当てにならないものかよく分かる。本来、評価できない人が本の評価をするレビューというシステムは、やはり欠陥が多いと言える。

 

第一章 ビットコインとはなにか?なぜ生まれたのか?

ビットコインがどういったものか、どういう経緯でできたものか、ということが大雑把に語られている。
簡単に要約すると、「ビットコインとは、暗号そのものが通貨となったもので、財産という観点からすれば金や銀などの貴金属に近い」ということになる。
ビットコインができた経緯としては、もともと、中本哲史なる人物が発表した論文が元になって、それを読んだ有志が「面白そうだ」という気持ちでやり始めたものらしい。それが、あまりにもうまくシステムが考えられているものだから、多くの人が利用するようになり、こうして価値を持ち始め、次第に金銭でも取引されるようになったようだ。 

 

第二章 ビットコインは通貨として通用するか?

金融と経済学の観点から、ビットコインが語られる。その上で、「通貨」というものがどういったものかについて、丁寧に説明があるのだが、経済学に全く疎い人は、全然理解できないかもしれない。
また、金融の観点から、ビットコインが「少額決済」に向いていること、「多国間決済」に向いていることが語られる。この観点からして、ビットコインのライバルは、クレジットカードになるということらしいが、実にそのとおりであろうと思った。

 

第三章 ビットコインを支える暗号技術

実際にビットコインを支えている暗号技術や、ネットワークシステムについて説明されている。本来ならかなり難しいであろうことが、非常に丁寧にまた分かりやすく説明されているが、ここでは説明しないので、興味のある方は実際にこの本を読んで頂きたい。 

 

第四章 ビットコインは通貨の未来をどう変えるか

ビットコインが、国家通貨と比較して、有用なのか、信頼に値するのか、ということについて、著者の意見が述べられている。
その過程で、中央銀行制度や国家財政、通貨の裏付けとは何か、などと言った金融経済でもかなり難しい、というか複雑な部分についての説明があり、その上で、ビットコインとの比較が説明される。
途中に、日本は江戸時代の時点で、かなり金融の発達した国だったということが書かれていて、非常に興味深かった。それなのに、幕府の放漫財政と、明治政府の強引な政策によって、この金融システムが破綻した経緯があるとのことで、また別の本で調べてみたいと思った。
あと、ユーロの失敗について詳しく語られていて、通貨が複数存在し、かつ為替が存在することの重要性も丁寧に説明されており、非常に勉強になった。

 

『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』 を読んで経済・金融・暗号を勉強する

 

ビットコインとの賢い付き合い方

最後、自分の意見として、ビットコインは、通貨としての価値はあるし、今後も需要は無くならないと思う。ただ、多く所有して儲けようといういわゆる投機の対象にするほどのものではないだろう。「自分が国際決済や小額決済で使う程度に所持する」くらいが、ビットコインとの賢い付き合い方であると思う。

 

経済の脆弱性

あと、この本を読んでいて、国家通貨もそれほど当てにならないものであることが身に沁みて分かった。というのも、国家通貨でも、仮に、日本経済が破綻、あるいは世界大戦のような惨禍が起きれば、一瞬にして価値が無くなってしまうからだ。「いやいや銀行や国がしっかりやってくれる」と思われるかもしれないが、石油が無くなって電気が供給されなくなれば、当然に銀行内の残高データやもちろん株式の所有のデータさえ全て飛んでしまう。こうなった時点で、国家通貨は崩壊するし、もちろんビットコインも一瞬にして消えてしまう。石油や電気への人類の依存度ということについては、本来なら国家レベルでもっと議論されるべきことである。しかしながら、そういった話は聞いたことがない。誰もこのことについて危機感を持っていないのは、実に危ういことである。

 

『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』 を読んで経済・金融・暗号を勉強する

 

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『フロイト入門』(筑摩選書)を読んで

フロイトを知りたい人には良著

けっこう分厚い本で、いかにも大学の教科書という感じの本だった。

内容としては、フロイトの論文や理論が時間と順を追ってまとめられており、まさに「フロイト入門」という題名に相応しいものだった。翻訳者の方の、フロイトが読んでいたと思われる参考文献への理解も伺えて、フロイトを知りたい人にとっては良著だと思う。

フロイトの主張は変化している

フロイトも、83才と長いこと生きていること、また、生きた時代が、まさに近代の科学が確立されつつある時期であること、さらに第一次世界大戦ナチスヒトラーの時代という激変期を生きており、こういった意味で、非常に理論が変わっていっているように思った。

だから、一概に「フロイトが~~~と言っている」と、何かを決めつけるような物言いは、ほとんど不適切であろうと思う。フロイト自身の持論がどんどん変わっているのに、フロイト自身が後に覆した理論までも正論とするのはやはりおかしい。
また、これに関連して、フロイトは、自分自身の理論を全体から俯瞰して統合し、調整するような著書は残していないようで、いたるところに理論の矛盾があるように感じた。こういった意味でも、フロイトの理論は基本的には「未完」で、フロイトの「権威だけ」を借りた理論が現在かなり横行しているのではないかと思う。

 

フロイトの功績

私としては、フロイトの功績は、あくまでも「精神分析」という分野を確立したことであって、彼の理論が全てにおいて納得できるものとは思えなかった。

晩年までフロイトが固持した理論としては、「エディプスコンプレックス」が挙げられるであろうが、これもいろいろな所に理論的破綻があるように思われる。また、そもそも、この理論自体がフロイト自身の生い立ちとの関係が深すぎて、こういった意味でも一般化できる理論ではないように思った。

 

精神分析はオカルト

このような弊害が起こるのは、人間の精神、または人間の精神分析の分野がどうしても「オカルト」の域を越えないことにあると思う。
というのも、人間の精神は、電磁波のように数値化もできないし、万有引力の法則のように数式化もできないし、物理現象のように実験によって反復することもできないからである。だから、どうしても、想像の域を越えることができない。こういった意味で、隠されたもの、つまり「オカルト」の域をどうしても出ることができない。精神分析も、所詮は見えないことを見えないなりに、秩序付けて理論に当てはめようとするだけのものなのだ。

 

無意識の発見はフロイトの功績

ただ、フロイトが挑戦したこの分野は、人類にとって意味のある分野であるし、これによって助かった人も多くいると思うから、その点では非常に評価できると思う。

また、この本の冒頭には「神が死んで人間の理性が神に成り代わったのであるが、フロイトの研究によって、この理性が『無意識』に支配されているものだったと明らかにされた」とあるが、確かにそうなのかもしれない。
われわれ現代人は、少なからず「自分は無意識という自分自身でも制御できないものに支配されている」という共通認識を持っていると思うが、この共通認識をわれわれが持っているのは、まさにフロイトの研究の成果なのかもしれない。

 

フロイト入門 (筑摩選書)を入手してフロイトに詳しくなる

 

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『他人を攻撃せずにはいられない人』(PHP新書)を読んで

25万部の大ヒットとその影響

かなり売れた本みたいだったので読んでみた。

恐らく、この本で「正義を盾にして人を責める人」が明らかにされたことにより、「モラルハラスメント」が世間で認知されたのではないかと思う。

モラルハラスメントについて詳しく知りたい方や、タイトルのような人のおかげで迷惑を被っている方は読む価値がある。

古典的なことではある

ただ、こういったやり方、つまり、相手の罪悪感を掻き立てることにより利益を得たり、相手を破壊するやり方は「暴力団」の常套手段でも有り、知っている人は知っている、けっこう古典的なやり方である。

というか、むしろ人間というのは昔から変わっておらず、『論語』でもこのやり方が批判されている。

論語・陽貨第十七より 「郷原は徳の賊なり」(地元の名士と言われる人は、いかにも廉潔の士であることを装っているのであるが、ことあるごとに余計なことに首を突っ込み、その真意としては自分の影響力と利得を増そうとしているだけであり、これは徳を盾にして人を傷つけ、徳それ自体を傷つけてしまう者である。というのも、こういった人がいるために、本当に徳のある人が逆に疑われることとなってしまうからだ」(要は9割方の地方議員など政治家のこと)

 

困ったやつは改心しない

また、この本にも、こういった人に関わってしまった場合の対処法がいくらか書かれているが、「こういった人間は絶対に変わらないから、悔い改めるかもしれないという期待を持たないことが重要」とはっきり書かれている。これは実にその通りで、この点は実に評価できる。仏典のアングリマーラの話や、少し違うがパウロの改心などは、文字通り奇跡で、現実にはほぼ起こり得ないようなミラクルファンタジーなのだ。

 

困ったやつの見分け方

しかし、こういった人の見分け方については、少し重要な点が書かれていない。

というのも、こういった人は「ちょっとした過失でも絶対に謝らない」のである。ちょっとした過失でも謝らないというのは、例えば振り向きざまにひじが当たってしまったり、何らかの理由で待ち合わせに遅れた場合、普通なら、すぐに「あ、ごめん」という言葉が出るのだが、絶対に言わない。

あと、皆の前で「自分は負けず嫌いである」と公言する。遠回しに「オレは常に一番になりたいから遠慮しろよ」と、まさに遠慮せずに言っているということである。

最後、もう一個、「自分が不利な立場になると、何を言われてもとにかく黙りこくる(くせに、調子のいいときは自慢話や恩着せがましい話ばかりする)」という特徴もある。黙っていれば謝らなくて済むし、自分に非があっても最低でも引き分けで自分は負けないからだ。

この三つ、あるいは一つでも当てはまったら、かなりタチの悪い人間である可能性が非常に高いので、絶対に関わらないことをオススメする。

 

意識せずにやっている人も大半

また、こういったこと(モラハラ)は、意識せずにやっている人も多く、この本を読んだのに、一度も「自分も過加害者かも知れない」とさえ思わない人や、あるいは、この本を読んで喜んでいる程度の人は、自分も加害者であることをよく理解したほうがいいだろうと思う。

こういった破壊衝動に伴ったストレス発散や八つ当たりは、誰もが少なからずやっていることであり、私が善良な人に間違いないと判断する場合でも、かなりやっている人は多い。

この本の著者だって、こうやって「モラハラ野郎を暴くこと」によって、モラハラしているに過ぎない一面もある。とはいえ、これは難しいところで、この本を読んで、「モラハラ野郎」からの被害に気づく人もいるだろうし、そういった人間を批判しなければ、そういった人間がのさばることになってしまう。この判断は実に難しい。

 

モラハラ野郎を暴くことは慎重に

また『論語』に戻ると、「子曰く、詐りを逆(むか)えず、不信を億(おもんぱから)ず、抑(そもそも)亦(また)先に覚る者は是れ賢か」(これは詐術ではないかと疑ってかかることなく、相手が本心とは別のことを言ったりやったりしているのかと憶測することなく、その人の真意が自分の利益と相手の破壊なのか、あるいは純粋に相手や皆の利益のみを考えているのかを知ることができるならば、これは賢者である)とあり、これは賢者のみが正しく判断できる非常に難しいことなのだ。この「非常に難しい」ということは、自分のためにも、実に弁えるべきことと思う。

 

他人を攻撃せずにはいられない人 (PHP新書)を入手して困ったアイツへの対策を立てる

 

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