平田 圭吾のページ

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『「エイジノミクス」で日本は蘇る 高齢社会の成長戦略』 (NHK出版新書)を読んで

簡単に言うと、「最先端技術のうち、高齢者と相性のいいものを組み合わせて、経済を発展させよう」という本だった。
つまり、age(年齢、転じて高齢者)+ economics(経済学)で、agenomicsであり、タイトル通りの本であったと言える。
タイトルのことに興味のある人、実際に関わる人は、読んで損はないと思う。また、わりと法整備的な障壁も多いようで、そういったことにも詳しく触れられていた。実務よりで、実際に高齢者関連の仕事に関わっている人には、役に立つ本だと思う。

最先端技術は日進月歩

この本の本筋はこのようなものであったのだけど、私が最も強く感じた印象は、「ロボット・AI・薬学などは、こんな発展していたのか」というものだった。本当に、これらの分野は日進月歩で、「そんなものが実用段階まで来ているの?」と驚いた。

例えば、薬学の範囲では、痴呆症の特効薬も実用段階手前らしい。また、痴呆症というのは、記憶が無くなるのではなく、隠されるだけで、治る見込みは十分にあるらしい。
また、これは新聞情報で、この本には書かれていないのだけど、IPS細胞を使った治験も臨床段階まで来ている。さすがに臓器を作るという段階までは来ていないが、IPSで薬を作っているし、遺伝由来の難病、パーキンソン病などは、治療のめどが立っているらしい。本当に、二三年後には、難病がかなり無くなっているかもしれない。

 

長生きで元気の秘訣は「出かけるところ」

あと、私が興味を持った話なのだけど、高齢者の元気が無くなる理由として、「出かけるところ」が無くなるというのがかなり大きいらしい。仕事人間が仕事をやめて急に元気が無くなるという話はよく聞くが、女性は、化粧を毎日するだけでかなり元気になるらしい。化粧をすると、出かけようという気になるからだ。

田舎であると、畑いじりをやっているじいちゃんばあちゃんがいつまでも元気なのは、経験則としてほぼ間違いないと誰もが実感していると思う。ここに出てきた「出かけるところ」と「元気さ」の関係は、この実感の裏打ちのような話であると思った。つまり、畑いじりの好きな人は、畑で体を動かすから元気なのではなく、むしろ、畑という、毎日のように出かけるところ、あるいは出かけたいと思うところがあるから、結果として体を動かすことができて元気なのだ。これは、高齢者に限らず、人間一般のことかもしれないが、何かに興味を持ち続けるということは、大事なことなのだろう。

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習近平の中国――百年の夢と現実 (岩波新書) を読んで

新聞記者で中国駐在員だった著者が、「習近平」を軸にしながら、現代中国の政治情勢をまとめた本である。わかりやすくまとめてあったし、新聞記者の方らしい、事実を重んじた本だと思う。

中国共産党の規模

まず、中国共産党の規模であるが、共産党員は、約9000万人おり、中国全人口の7%に当たる。日本の人口が1億2000万人であることを考えると、これは、結構な数である。このような巨大組織、「中国共産党」という組織に関する説明からこの本は始まる。この時点でも、中国の政治体制が、日本の政治体制とはだいぶ違うものだということがよくわかる。とにかく、「日本の常識的な考え方を通用できない」のだ。

 

現代中国の政策

また、この本を読むと、「新時代の中国の特色ある社会主義」思想、いわゆる「習近平思想」ができてきた流れも、把握できてくるし、中国の政治的采配の流れも把握できてくる。

 

南シナ問題

その中でも、今、最も日本と関係のある話は、やはり、尖閣諸島も含めた「南シナ海問題」であろう。ネット上には、日本が中国の一部となり「日本自治区」として銘打たれた地図が流通しているが、あれは事実を反映していないと思われる。あんなものを真に受けていると、事実を見誤ることになる。

 

重要なのは九段線

つまり、実際には、清代末期ころから流通した勢力図をもとにした「九段線」なる地図が、現在の中国の領土確定(希望)線であるのだ。清代末期~第二次大戦までの中国と言えば、中国が日欧米からさんざんにやられていた時代であり、このような時代にナショナリズム発揚教育の一環として、この「九段線」が盛んに取り沙汰されていたらしい。このような歴史があるからこそ、中国は南シナ海から引くに引けない状況になっているのだと思われる。ちなみに、九段線の元になっている勢力図では、沖縄が中国領土として記されている。この点は、実に日本としてよく考えておくべきことだろうと思う。

 

習近平とはどんな人物なのか

次に、本のタイトルにもなっている習近平氏の略歴などについても、しっかりと書かれている。共産党派閥としては小さい部類の「紅二代(第二次大戦直前に共産党入した人を親に持つ世代、昔からあるエリート家や名家ではない場合が多い)」という派閥に属する人らしい。
若い頃は、農村でしばらく研修をしていたらしいが、おとなしい性格で、夜遅くまで本を読んでいたそうだ。また、その農村を蹂躙したり軽視したりするようなエピソードも残っていない。目立たないが、農民側の主張を大切にするような若者だったらしい。

 

習近平は君子だが

それで、こういった事実から浮き上がってくる習近平氏の人柄は、悪人と言うよりは、私に言わせれば君子である。しかし、忠臣でもある。「おい正気か」と思われる方もあるかもしれないが、習近平氏は、これだけの巨大組織で、若い頃からおとなしい性格であるにもかかわらず、トップになった人物だ。中国人は野蛮人ではない。改革開放が進んで、情報も入るようになった現代中国人は、強権的な悪人などにひれ伏すほどバカではない。つまり、習近平氏が悪人のように仕立てられるのは、仕える君主が「共産党」だからなのである。共産党に忠実すぎるのが、氏の悪評を買う所以であろうと思う。

 

共産党に忠実

それが証拠に、この本を読むと、習近平氏の取っている政策が、実は共産党でかなり昔から暖められてきた政策にキッチリ沿っているということが分かるのだ。氏は、思いつきに、また恣意的に、政策の舵を切っているわけではない。あくまでも「中国共産党」の路線を踏襲しているに過ぎないのだ。その大まかな路線を第一にして、民主主義国家からすると、理不尽と思われる対策を次々と繰り出しているのだと思われる。

 

中国人は本当に民主化を望んでいるのか

最後、この本では、岩波ということもあると思うけど、いかにも中国国民が民主化を望んでいるようなことが書かれていた。しかし、新聞などを読んでいる限りでは、とてもではないけど、中国国民が民主化を望んでいるとは思えない。確かに、チベットやウィグル、内モンゴルなのどの自治区には、そういった機運があるのかもしれない。香港にもそういった事実はある。
けれど、「中国国民が民主化を望んでいる」ということは、所詮は民主主義国家の国民の「希望」でしかないのだと思う。つまり、「そうであってほしいと思いたいだけ」という幻想と思う。

 

良さは体験しないと分からない

というのも、人というのは、新しい下着を着けるまで、その良さが分からない生き物であるからだ。風呂に入って、新しい下着を着てみた人でないと、その良さはわからない。中国国民が共産党に満足するのは、ちょうど、風呂に入らず新しい下着を着たこともない人が、新しい下着の良さが分からないのと同じなのだと思う。身近な例を出せば、「徳」という新しい下着を着たことがない人は、いつまでたってもその良さがわからず、嘘をつきながら古い下着を見せびらかして人前を闊歩する。しかし、自分がそんな恥ずかしいことをしていることに一向に気が付かない。体験したことのない良さは一生わからないというのが、幻想のない事実ではなかろうか。

 

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『広告コピーの教科書: 11人のプロフェッショナルの仕事から伝える』(誠文堂新光社)を読んで

広告業界のことがよく分かる本。
いわゆるハウツー本とはぜんぜん違うし、「教科書」というタイトルもハッキリ言って不適切。具体的な指導を施す教科書というよりは、むしろ観念的な教えを示すバイブルと言ったほうが適切。サブタイトルにもあるように、11人の広告業界で有名な人の原稿を集めた本である。

このため、広告業界に興味のある人、電通とか博報堂に就職したいと思っている人、既にそういった業界に身を投じている人、コピーライターに憧れている人、広告代理店に広告を任せようと思っている人、などにとってはかなり良い本だと思う。私はどれにも当てはまらないが、普通に読んでいて面白いと思ったし、「文章を作る」という点で参考になったので、少し本の評価を上げておいた。

 

広告業界とは

まず、そもそも現時点で、「広告」はメディア、あるいはマスメディアの1項目に挙げられるほどの大きな産業分野であり、確か、メディアの1割は広告業ということだったと思う。ちょっと正確な数字は分からないけれど、この産業規模は、新聞に匹敵するか、あるいはその半分程度はある、と言えば、その業界の広さと影響力の大きさが分かっていただけるものと思う。
もっと身近に影響力の大きさを示すと、ジョージアの「明日があるさ」、BOSSの「宇宙人ジョーンズ、このすばらしき、ろくでもない世界」とか、「ウーロン茶は、サントリーのこと」といったコピーは、日本人の90%以上が知っていて、しかも、実生活にある程度の影響を与えていることが分かる。むしろかなりの影響力を持っているのである。これらのコピーを書いた人の原稿もこの本には収められている。

 

広告業界は胡散臭い

また、電通博報堂という社名も出したように、これは一種の名誉回復のための本である。出版は、2015年1月で、忘れもしないオリンピックエンブレムの博報堂の佐野事件の半年後なのだ。だから、かなり厳選して「広告業界のライトサイド」を集めたんだろうなぁということがあからさまだった。

そもそも、私は広告業というものにかなりの不信感を抱いている。というのも、大げさに言うのが広告であり、宣伝であるからだ。同じような理由で、私は、営業職の人も基本的に信用しない。毎日大げさに売り込むことばかりしていれば、根はいい人でも、必ずそういった人になってしまう。この意味で、「広告業のライトサイド」を知れたのは興味深かった。しかし、あくまでも、これは表に出せる「ライトサイド」の話であり、もちろん、この本に出てこない「ダークサイド」も根深くあるんだろうと思う。証拠はたくさんあるので各自お察しいただきたい。

 

広告業のポリシーにおける共通点

それで、そのライトサイドの人たちが言っていることの共通点であるが、これが驚くことに「相手を思いやること、相手の立場になること」、『論語』で言えば「恕」なのである。あと、「嘘はだめ」ともある。胡散臭い広告業も、超一流くらいまで行けば、ライトサイドな考え方を基調とするのであろう。

また、「コピーは失敗できないので一発が重い」ということも非常に感じられた。これは作家や小説家と正反対と言っても過言ではない考え方である。普通の著述家は、表現を重ねて、言い方を変えて、同じことを何度も繰り返すものである。例えば、「夢を忘れず、ファンタジーを楽しむ」ということを言うために、ハリーポッターにはあれほど長い著述が必要なのである。しかし、コピーライターは、短いフレーズで、効果的にある一つのことを伝えなければならない、しかもお金をかけてCMとかも打つのだから失敗できない。

最後、いいコピーとは、「商品の取っ手になれるコピー」という言葉も、分かりやすく広告業を表現していると思った。コーヒーカップの中に入っている熱々のコーヒーがいくら美味しくても、コーヒーカップに取っ手がなければ、飲んでもらえない。コピーや広告とは、そういった意味で、「商品の取っ手」なのだ。

 

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