平田 圭吾のページ

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『ネット炎上対策の教科書ー攻めと守りのSNS活用』(日経BP社)を読んで

本の内容

一般向けの本ではなかったし、炎上対策が主眼の本でもなかった。
つまり、この本の内容は、「炎上が怖くてSNSを活用することに二の足を踏んでいる企業」にジャストフィトするものであり、この条件に合わない人が読んでも、面白くもないし参考にもならない。逆に言えば、上の条件に一致する人が読めば、タイトル通り「教科書」と言えるくらい示唆に富んだものであると思う。
だから、書かれている内容としては、炎上対策一本槍でなく、SNS活用での成功事例が紙幅の半分を占めている。

 

炎上の語源

一つ面白い話として、この「炎上」という言葉の語源の紹介があった。それによると、もと、炎上とは野球でピッチャーが滅多打ちにされた時に「○○投手火ダルマ」などと新聞などで使われていた言葉が元になっているらしく、「炎上」自体が新聞で使われ始めたのは2000年ころではないかとのことだ。
この「滅多打ちにされる」というイメージ、また、「燃料投下」、「鎮火」などの派生語がうまくイメージに合致したことによって、この「炎上」という言葉がネット上で定着することとなったのであろうとのことだ。

この「炎上」について詳しく知りたい方は、前回の「ソーシャルメディア炎上事件簿」に関する記事を読んでいただければと思う。

 

炎上の新傾向(既に古い)

ちなみに、炎上の新傾向として本書に収められていたものとしては、「女性が家事をするのが当たり前みたいな言い回し」、「数は少ないが声の大きいネット右翼が過剰反応する韓国関連の事」が書かれていた。この本の出版が2015年で、現在が2017年で2年の月日が経っているわけだけど、既にこれらのことは下火気味になっているので、やっぱりネット上での時代の移り変わりは早いなぁと思う。 

 

広報活動でSNSを使いたならオススメ

最初にも書いたように、自社の広報活動にSNSを活用しようか迷っている、ということならば、この本を読んで検討するのがいいだろう。また、SNSを活用するならば、手元に置いて危機管理や活用方法の参考にするといいと思うし、実際に役に立つと思う。

 

ネット炎上対策の教科書を入手してSNS活用の広報をする 

 

hiratakeigo.hatenablog.com

『ソーシャルメディア炎上事件簿』(日経BP社)を読んで

本の内容

題名通りの本だった。
内容としては、30件の「炎上事件」を固有名詞も出して紹介してある。また、炎上に関して、ある程度の分析も書かれている。
炎上についてまとめた本は意外と少なく、そういった意味では貴重で価値あるものと思う。

ただ、問題点として、日経「デジタル」マーケティング内だけで編集などが行われているせいか、SNSなどを「既に使っている人」しか内容が分からない点がある。
つまり、詳しい説明がないために、ネットを頻繁に使っている人しか、事件の内容をしっかりと把握できないのではないかと思われるのだ。今の時代、ほとんどの人がネットを利用しているとはいえ、せっかく本にまとめたのだから、ネットに疎い層にも分かるような丁寧な記述やネット用語の説明があれば、もう少しいい本になったと思う。減点ではないけど、ネットに疎い人にも一度読んでもらって、意見を聞いていたら良かったのにと思う。ちなみに、そこそこネットを利用している私でも、事件の経緯がイマイチ分からない部分があった。

 

炎上の舞台・ソーシャルメディアとは

次に、この本の題名にもなっている「ソーシャルメディア」とは、現在、主に「SNSソーシャルネットワークサービス」と言われているものである。
代表的なサービスとしては、ツイッターフェイスブックミクシィ・インスタグラムがある。SNSとは少し違うのかもしれないけど、ユーチューブや、ニコニコ動画、ブログなども、個人がネットに発言などを公開して、オープンに反応が得られるという点で広義のSNSということになるだろう。さらに、2ちゃんねるといった完全匿名の掲示板も、さらに広義のSNSなのかもしれない。
詳しくは流石にここでは説明できないので、それらのサービスを利用して体験していただければと思う。

 

炎上とは

また、炎上とは、これも定義が難しいのだけど、上に示したようなサービスで、ある同一の話題が、頻繁に、また同時多発的に、批判的な意見を添えて取り沙汰されること、ということになろうか。主にネット上で時の人、時の話題となるのだけど、悪いイメージがあまりにも強くつきすぎて、企業ならば売上が落ち込み、個人ならば身元バレして日常生活にも悪い支障が出るほどとなる。
最近だと、「おでんツンツン男」が炎上のいい例ではないかと思う。もちろん、この本を読むことでも、炎上がどういった現象か、ということはイヤというほど分かる。

 

炎上に関する対策など

こういったわけで、炎上すると基本的には損害のほうが大きくなるわけで、誰でも、自分の発言は炎上してほしくないと思うだろう。

 

炎上商法は下策

確かに、中には、炎上商法とかを狙う人もいる。というのも、話題がとにかく勝手に大きくなるから、タダで宣伝できるのだ。とはいえ、一度炎上すると、炎上をコントロールするのは不可能で、身元がバレるのも時間の問題である上に、主に悪いイメージが先行するのだから、基本的には得策ではない。炎上商法は、まさに、超ド級のハイリスクなのに、そこそこのハイリターンしかない賭けであると言える。ゼロどころかマイナスになる可能性もあるので、炎上商法は狙わないに越したことはない。

 

炎上しそうなことはしない

このように話を進めると、「どうしたら自分が炎上から逃れられるのか」と多くの方が思われるものと思う。
この本では主に、企業目線からこの対策について書かれているのだけど、まず一番重要なこととして、「炎上しそうな発言はしない」ということがある。そこで、炎上しそうな発言とは、1.口汚い言葉・不謹慎な言葉、2.イデオロギーに関する話題、3.上から目線な発言、4.犯罪自慢・犯罪者擁護、5.価値観の否定や押しつけ、6.なりすまし発言、7.隠蔽工作に関わること、などがある。

 

炎上は事故

とはいえ、この本に書かれた炎上事例を見ていても、正直なところ「炎上は事故」としか言いようがない部分がある。つまり、かなり慎重に車の運転をしていても、どんな偶発的なことが起きて事故にあってしまうか分からないように、また、地震がいつ来るか分からないように、「炎上」もネットを利用している以上は「いつあってもおかしくない」のである。

 

問題発言の削除と速やかな謝罪

「じゃあどうすればいいの」ということになるが、万が一、この炎上という事故にあってしまった場合は、すぐに「炎上の原因となった発言や動画を削除すること」である。そうすれば、それ以上話題が大きくなることを多少食い止めることができる。個人の場合は、この対応だけである程度の鎮火が期待できる。
企業の場合は、さらに、ここですぐに「謝罪しなければならない」。また、この時の注意事項として、「謝罪と言い訳をセットにしないこと」が重要である。言い訳したい気持ちはあるだろうが、とりあえずは、反省して問題に向き合っていることだけをアピールしなければならない。ここで言い訳をすると、余計に炎上することとなる。

炎上の事例をいくつか見て、炎上の怖さや、炎上がどういったものかということがよくわかった。
けれど、実は、この本が2011年出版で、目まぐるしく状況が変わる現在のネット環境において、既に古い情報の部類に入る。ということで、2015年に出版された「ネット炎上対策の教科書」(リンククッリクでその記事へ)というのも借りてあるので、続いてこれも読んでみようと思う。

 

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『ルポ トランプ王国−もう一つのアメリカを行く』 (岩波新書) を読んで

本の内容

いい本だった。

内容としては、タイトルの通りで、トランプ支持者への地道な取材をまとめたもの。トランプを支持した人の気持が克明につづられており、大変興味深く面白い内容だった。

 

時期や期間

取材の期間は、2015年11月で、大統領選が2016年の11月なので、約一年間の取材の記録の集大成というこになる。
ちなみに、今調べてみたところ、2016年5月に共和党の別の候補が、大統領選から撤退を決めたことにより、トランプ氏が共和党の正式な候補となった。なので、党内選挙は行われていない。
この時の有権者の反応についてはあまり本書に書かれていなかったが、トランプ氏が立候補を表明した2015年6月から、共和党内の支持率は1位だったようで、共和党の正式候補になることは、ほぼ確実視されていたようだ。

 

主な取材地

また、主な取材地は、アメリカでラストベルト(錆びついた鉄の一帯)と呼ばれる地域である。
取材の地域に共通することは、少なくとも都市部ではない、かつては工業地帯として栄えていた、労働組合の関係でトランプ登場までは民主党支持者がほとんどであることがある。
大統領選では、この地域での得票がトランプ氏の当選につながった。

 

日本とアメリカの違い

本を読んだ上での感想や分析を書く上で、日本とアメリカとの違いを述べなければなるまい。この違いを述べることで、いろいろな疑問も解けてくる。

 

アメリカは広い

まず一つ目が、アメリカが広大であることだ。これは地図を見れば一目瞭然であるけれど、実際の影響はかなりすごい。というのも、恐らく我々日本人の知りうるアメリカの情報や印象は、実のところ、ワシントン・ニューヨーク・ロサンゼルといった都市部のものがほとんどであるようなのだ。また、地域間格差も日本のそれとは桁違いである。この証拠として、我々日本人は、トランプの支持者が本当にいるのか?と疑問に思うような報道しか目にしなかった。しかし、この本を読むことで、これが誤解だったことがよく分かる。

 

偉大なアメリカは二昔前

次に二つ目が、偉大なアメリカとは1950~70年頃のことであることだ。日本が一番良い時代だったのは、恐らく1980年以降のバブル崩壊までごろだから、だいぶ年代が違う。だから、トランプ氏が言う偉大なアメリカ、アメリカファーストとは、この時代のことであり、現在の現役世代の知らない時代である。こういったフレーズがトランプ氏から出ることと、彼の生年が1946年であることは、かなり関係が深いだろう。

 

アメリカンドリームへの誤解

最後三つ目、アメリカンドリームとは、億万長者になることではなく、誰でも一生懸命に働けば、家を買って、毎年バカンス(家族旅行)に出かけ、老後も安心して暮らすことであった。だから、出自に関わらず、現代日本で言う所の普通の暮らしができれば、これはアメリカンドリームの実現なのである。また、このアメリカンドリームを実現したのが、いわゆるミドルクラスであり、日本で言う所の中間層である。

 

まとめ

それで、今回トランプ氏が大統領選で勝利した理由は、上に挙げた三つのことにあるのだ。

つまり、日本人の目に入らない田舎で、偉大なアメリカを懐かしみ、ミドルクラスからの転落を恐れた人々が、トランプ氏に投票したし、彼らがトランプ氏の熱狂的な支持者であったのだ。
取材に応じたトランプ支持者の人の身の上もかなり同情するものが多い。自分の町で新車を買えない人、仕事を三つ掛け持ちしても暮らしが楽にならない人、兄弟が麻薬中毒で死んでしまった人、仕事が見つからず都市部に出ていく若者の後ろ姿を見送るだけの人、約束していたはずの仕事が急になくなって家や土地を手放した人、給料は減る一方で増える期待がない人、など、そこには、哀愁・悲哀・郷愁・不満・不安がいつも見える。

それで、私が読んでいて思ったことは、これは日本と同じだ、あるいは、日本の未来だ、ということだ。決して他人事ではない。日本では表面化していないけれど、いずれ「ミドルクラスの転落」とそれに対する社会不安は、日本でも近いうちに表面化するだろう。

 

ルポ トランプ王国を入手してアメリカの実情をしっかり知る

 

また、他の詳しい分析は、前にも一度記事にしたので、興味のある方は読んでいただければと思う。ここに書いた分析と、この分析を合わせれば、トランプ大統領当選についてのことは、ほぼ網羅できるものと思う。

d.hatena.ne.jp

 

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