平田 圭吾のページ

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『合衆国再生―大いなる希望を抱いて(オバマ著)』(ダイヤモンド社)を読んで

かなり分厚い本で、読むのにかなりの時間がかかった。

今年で、オバマ大統領の任期(二期八年)も終わりということで、この大統領選前に本人の書いた本を読んでみた。オバマ氏の考えていたことが、どれほど実行されたのかを確かめるためだ。

なんでもそうであるが、言うことは簡単であるが、やることは難しい。

ちなみに、合衆国憲法においては、初代大統領ワシントンの慣例に従って、大統領は二期八年までと明記されている。たまに、なぜオバマは立候補しなかったのか?という意見を見るので、ここに明記しておく。

また、本のタイトルは、The audacity of hope で、『合衆国再生』というのは日本向けのタイトルであり、単語の意味に忠実になると、タイトルは「大胆さ、希望のね」みたいな意味になる。

オバマ氏はなぜ大統領になれたのか

それで、まず、アメリカ大統領というのは、世界で最も有名な人であると思う。
オバマ氏が、どうして、この世界で最も有名な地位に就けたのかということであるが、この本を読んでいて、もちろん本人の実力もあるにしても、かなり運が良かったんだろうなぁとしか思えなかった。
例えば、日本の選挙制度などでは、オバマ氏が首相になることはあり得ない。日本で首相になるには、党の総裁になる必要があるが、これは権力ガチガチの派閥的手腕や血筋などが必要で、オバマ氏のような若手かつポッと出の人がそれになれる可能性はかなり低いからだ。
そんなわりと有利な条件の中、時代のニーズ、何らかのご縁、また、恐らくこの本が売れたこと、オバマ氏の演説がうまくて、人の心を捉えるものであったこと、などが重なったのが、オバマ氏が大統領になれた理由だと思う。

 

この著書から読み取れるオバマ氏の人間像

次に、オバマ氏がどんな人であるかと言えば、ロダンの考える人である、また、中国古典風に言えば、君子として間違いない。
ロダンの考える人、については、オバマ氏が、あの格好でしかめっ面をしている所をご想像いただきたい。かなり似合わないだろうか?実際に、本を読んでみても、そういったしかめっ面をして、いろいろ考えていることが非常に伝わってくる本だった。いたるところに、人間らしい葛藤が見える。
君子として間違いない、というのは、この本がオバマ氏一人によって書かれていないことがその証拠である。翻訳文であるのだけど、文体や言い回しから、明らかに別の人が書いたのだろうなぁというところがある。また、事実、あとがきには、10人以上の協力者の名前が連ねられいる。かなり異例であると思う。
しかし、これは、10人以上の人に、オバマ氏の考えがしっかりと理解されているということである。もし仮に、オバマ氏がタテマエと本音を使い分ける術策に長けた人であったら、どこかで食い違いが起こっているはずなのだ。つまり、オバマ氏は、至誠の人であるからこそ、多くの人の力を借りて、この一つの著書を仕上げることができたのだ。
また、これだけ多くの人の力を借りることができるということは、まさに、「師を多く取る者は王たり、友を多く取る者は覇たり」とも言うように、自分と対等か、あるいは対等以上の人の意見をよく聞いて、それを受け容れることができるということであり、この点でも君子と言える。

 

 

オバマ氏の思想的立ち位置

また、書かれている意見としても、二項対立的な考え方、つまり、「戦争賛成VS戦争反対」のような極論、あるいは、「あいつは人間的に悪党だVSあいつはいいやつだ」という考え方をしてない。「どちらの言い分も正しいだろう、しかし間違っている部分もある」という当たり前にして、最も重要な考え方をしている。私も、ネット上で、サヨクからはネトウヨだとイチャモンをつけられ、ネトウヨからはサヨクだとバカにされるようなことがあるが、まさにこういった「賛成派、反対派のどちらからも批判されそうなこと」を主張していて、この点でも非常にすばらしいと思う。

本の書き方としては、上に書いたように、恐らく多くの人と協力して書いたものなのだろうけど、途中途中に、小説のような情景描写があり、また、スキャンダルの内側や、知られざる連邦議会の実情などもあり、こういった点で、読者を飽きさせない工夫がしてある。また、かなり文学的にうまくまとまった章もあり、この意味でも、一人で書いたものではないだろうなと思った。

 

オバマ氏は初志貫徹できたのか

最後に、オバマ氏が自分の意見を実行できたのか、というと、かなりこれは微妙である。というのも、賛成でも反対でもないから、それが時代の流れでそうなったのか、オバマ氏の手腕でそうなったのか、判定ができないからである。イラク戦争撤退は、この本でも明言されており、実行されているので、これは明らかに評価できる。

 

アメリカの内情がよく分かる

そういった意味でも、オバマ氏の政治的手腕を評価する本というよりも、日本人としてみれば、アメリカの内情がよく分かる本として読む価値がある。
ちなみに、アメリカからすると、日本とヨーロッパ諸国は同列で語られているのが、なんか新鮮であった。あと、同じような問題は抱えている反面で、アメリカ特有の問題が多くあり、アメリカと比べて、日本はかなり恵まれているとも思った。

ちなみに、今、オバマ氏は、大統領退陣の際、しばらくは著書を書いたりして、家族との時間を大切にしたい、と言っているので、また著書が出るものと思う。個人的には楽しみにしている。

 

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