平田 圭吾のページ

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『小さな出版社のつくり方』(猿江商會)を読んで

面白かった。
本自体の装丁としても、カバーは半透明のものでデザイン性に優れ、紙の質も明らかに良く、クオリティは高いと言える。

内容として、ハウツー本ではなく、12の「小さな出版社」のできた経緯や、その後の経営状況を取材し、まとめた本であった。
だから、一言目の感想が、いい本だったとかいうのでなくて、面白かったというものになっている。

 

一般の人には若干読みにくい

ただ、業界用語とかの説明の度合いや、書き方や編集のやり方、タイトルからしても、「既に編集や本作り、あるいは本の販売に関わっている人」が、読者層としてターゲットになっていると思われる。少し工夫して、「一般の本が好きな人や本に興味がある人」もターゲットに入れていても良かったのではないかと思う。
とはいえ、この本を読んでいれば、そのようにターゲットを絞った理由もいろいろな意味で分かるので、批判は込められていないし、業界用語を知らない人でも楽しく読める程度であるとは思う。

 

ライバル多く書籍の売上はダダ下がり

また、ターゲットが限定されているということとも関係があるのだけど、そもそも、雑誌を含めた書籍に関する売上は、1990年台後半の2.6兆円を境に年々落ちており、現在では1.5兆円となっている。この著者の方は、売上減少の主な要因を生産年齢人口の減少としているけど、これは私は正確ではないと思う。
というのも、『日本のマスメディア』というNHK出版の本を読むと理由は明々白々で、本を読む以外の娯楽がそのころから増えているのだ。つまり、レンタルビデオ、テレビ、ゲーム、ネットなど、本を読むことに置換しうる娯楽が、その頃から急激に普及したという事実もある。だから、本を売る(もちろんマンガも含めて)ということを考える時には、レンタルビデオなどの映画作品、あるいはゲームすらも、ライバルとして意識しなければならない。

 

小さな出版社の価値

このようなわけで、出版業界が厳しくなるのは当然で、厳しくなれば攻めることはできず守りとなり、仕事内容も保守的となって、出版社に勤めている人も、面白い仕事や自分のやりたい仕事はできなくなるし、当然のように本自体もつまらなくなる。だからこそ、この本に登場してくるような小回りの効く小さい出版社というものにいろいろな価値が出てくる。

 

出版業界特有の問題

しかし問題はそれだけではない。出版業界特有の問題も、この本のひとつのテーマとして書かれている。それは、取次(問屋)を挟んだ出版業界特有の流通システムだ。この問題は、特に最近の新書の陳腐化とも深い関係があるのだが、なぜその流通システムに問題があるのかは複雑なので、知りたい方はこの本を読んでいただければと思う。

 

この本で紹介されている出版社

ちなみに、この本で紹介されていた出版社は、アルテスパブリッシング、鉄筆、羽鳥書店、悟空出版、ブックエンド、小さい書房、コルク、SPBS、トランスビュー、ころから、共和国、猿江商會(この本を出版している会社のため簡略)となっている。
最初にも書いたように、面白いし、本の装丁もクオリティが高いので、ぜひとも手に取って読んでいただければと思う。(ちなみに、私は図書館で借りた。)

 

『小さな出版社のつくり方』をアマゾンで入手

 

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『ネット炎上対策の教科書ー攻めと守りのSNS活用』(日経BP社)を読んで

本の内容

一般向けの本ではなかったし、炎上対策が主眼の本でもなかった。
つまり、この本の内容は、「炎上が怖くてSNSを活用することに二の足を踏んでいる企業」にジャストフィトするものであり、この条件に合わない人が読んでも、面白くもないし参考にもならない。逆に言えば、上の条件に一致する人が読めば、タイトル通り「教科書」と言えるくらい示唆に富んだものであると思う。
だから、書かれている内容としては、炎上対策一本槍でなく、SNS活用での成功事例が紙幅の半分を占めている。

 

炎上の語源

一つ面白い話として、この「炎上」という言葉の語源の紹介があった。それによると、もと、炎上とは野球でピッチャーが滅多打ちにされた時に「○○投手火ダルマ」などと新聞などで使われていた言葉が元になっているらしく、「炎上」自体が新聞で使われ始めたのは2000年ころではないかとのことだ。
この「滅多打ちにされる」というイメージ、また、「燃料投下」、「鎮火」などの派生語がうまくイメージに合致したことによって、この「炎上」という言葉がネット上で定着することとなったのであろうとのことだ。

この「炎上」について詳しく知りたい方は、前回の「ソーシャルメディア炎上事件簿」に関する記事を読んでいただければと思う。

 

炎上の新傾向(既に古い)

ちなみに、炎上の新傾向として本書に収められていたものとしては、「女性が家事をするのが当たり前みたいな言い回し」、「数は少ないが声の大きいネット右翼が過剰反応する韓国関連の事」が書かれていた。この本の出版が2015年で、現在が2017年で2年の月日が経っているわけだけど、既にこれらのことは下火気味になっているので、やっぱりネット上での時代の移り変わりは早いなぁと思う。 

 

広報活動でSNSを使いたならオススメ

最初にも書いたように、自社の広報活動にSNSを活用しようか迷っている、ということならば、この本を読んで検討するのがいいだろう。また、SNSを活用するならば、手元に置いて危機管理や活用方法の参考にするといいと思うし、実際に役に立つと思う。

 

ネット炎上対策の教科書を入手してSNS活用の広報をする 

 

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『ソーシャルメディア炎上事件簿』(日経BP社)を読んで

本の内容

題名通りの本だった。
内容としては、30件の「炎上事件」を固有名詞も出して紹介してある。また、炎上に関して、ある程度の分析も書かれている。
炎上についてまとめた本は意外と少なく、そういった意味では貴重で価値あるものと思う。

ただ、問題点として、日経「デジタル」マーケティング内だけで編集などが行われているせいか、SNSなどを「既に使っている人」しか内容が分からない点がある。
つまり、詳しい説明がないために、ネットを頻繁に使っている人しか、事件の内容をしっかりと把握できないのではないかと思われるのだ。今の時代、ほとんどの人がネットを利用しているとはいえ、せっかく本にまとめたのだから、ネットに疎い層にも分かるような丁寧な記述やネット用語の説明があれば、もう少しいい本になったと思う。減点ではないけど、ネットに疎い人にも一度読んでもらって、意見を聞いていたら良かったのにと思う。ちなみに、そこそこネットを利用している私でも、事件の経緯がイマイチ分からない部分があった。

 

炎上の舞台・ソーシャルメディアとは

次に、この本の題名にもなっている「ソーシャルメディア」とは、現在、主に「SNSソーシャルネットワークサービス」と言われているものである。
代表的なサービスとしては、ツイッターフェイスブックミクシィ・インスタグラムがある。SNSとは少し違うのかもしれないけど、ユーチューブや、ニコニコ動画、ブログなども、個人がネットに発言などを公開して、オープンに反応が得られるという点で広義のSNSということになるだろう。さらに、2ちゃんねるといった完全匿名の掲示板も、さらに広義のSNSなのかもしれない。
詳しくは流石にここでは説明できないので、それらのサービスを利用して体験していただければと思う。

 

炎上とは

また、炎上とは、これも定義が難しいのだけど、上に示したようなサービスで、ある同一の話題が、頻繁に、また同時多発的に、批判的な意見を添えて取り沙汰されること、ということになろうか。主にネット上で時の人、時の話題となるのだけど、悪いイメージがあまりにも強くつきすぎて、企業ならば売上が落ち込み、個人ならば身元バレして日常生活にも悪い支障が出るほどとなる。
最近だと、「おでんツンツン男」が炎上のいい例ではないかと思う。もちろん、この本を読むことでも、炎上がどういった現象か、ということはイヤというほど分かる。

 

炎上に関する対策など

こういったわけで、炎上すると基本的には損害のほうが大きくなるわけで、誰でも、自分の発言は炎上してほしくないと思うだろう。

 

炎上商法は下策

確かに、中には、炎上商法とかを狙う人もいる。というのも、話題がとにかく勝手に大きくなるから、タダで宣伝できるのだ。とはいえ、一度炎上すると、炎上をコントロールするのは不可能で、身元がバレるのも時間の問題である上に、主に悪いイメージが先行するのだから、基本的には得策ではない。炎上商法は、まさに、超ド級のハイリスクなのに、そこそこのハイリターンしかない賭けであると言える。ゼロどころかマイナスになる可能性もあるので、炎上商法は狙わないに越したことはない。

 

炎上しそうなことはしない

このように話を進めると、「どうしたら自分が炎上から逃れられるのか」と多くの方が思われるものと思う。
この本では主に、企業目線からこの対策について書かれているのだけど、まず一番重要なこととして、「炎上しそうな発言はしない」ということがある。そこで、炎上しそうな発言とは、1.口汚い言葉・不謹慎な言葉、2.イデオロギーに関する話題、3.上から目線な発言、4.犯罪自慢・犯罪者擁護、5.価値観の否定や押しつけ、6.なりすまし発言、7.隠蔽工作に関わること、などがある。

 

炎上は事故

とはいえ、この本に書かれた炎上事例を見ていても、正直なところ「炎上は事故」としか言いようがない部分がある。つまり、かなり慎重に車の運転をしていても、どんな偶発的なことが起きて事故にあってしまうか分からないように、また、地震がいつ来るか分からないように、「炎上」もネットを利用している以上は「いつあってもおかしくない」のである。

 

問題発言の削除と速やかな謝罪

「じゃあどうすればいいの」ということになるが、万が一、この炎上という事故にあってしまった場合は、すぐに「炎上の原因となった発言や動画を削除すること」である。そうすれば、それ以上話題が大きくなることを多少食い止めることができる。個人の場合は、この対応だけである程度の鎮火が期待できる。
企業の場合は、さらに、ここですぐに「謝罪しなければならない」。また、この時の注意事項として、「謝罪と言い訳をセットにしないこと」が重要である。言い訳したい気持ちはあるだろうが、とりあえずは、反省して問題に向き合っていることだけをアピールしなければならない。ここで言い訳をすると、余計に炎上することとなる。

炎上の事例をいくつか見て、炎上の怖さや、炎上がどういったものかということがよくわかった。
けれど、実は、この本が2011年出版で、目まぐるしく状況が変わる現在のネット環境において、既に古い情報の部類に入る。ということで、2015年に出版された「ネット炎上対策の教科書」(リンククッリクでその記事へ)というのも借りてあるので、続いてこれも読んでみようと思う。

 

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