平田 圭吾のページ

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『現代オカルトの根源:霊性進化論の光と闇 』(ちくま新書)を読んで

どんな本だったかと言うと、オウム真理教について興味を持った著者が、その源流をたどっていった結果、「霊性進化論」にたどり着いたというものだった。だから、カルト宗教の源流や、トレンドを知りたいという方、あるいは、カルト宗教を見分けたいと思っている方にはかなりの良著と思う。

霊性進化論とは何か?

そこでまず、霊性進化論とは何か?であるが、これは、人が物質的側面と霊的側面をもったものであるという仮定から始まる。何故にこのようなことから始まるかといえば、人は物質的にはサルやプランクトンから進化したものであり、「何ら特別なものではない」からである。これを解決するために持ち出すのが、人間の「霊的側面」であり、この「特別な」霊的側面を進化させようというのが「霊性進化論」である。

 

カルト宗教の主張は面白い(笑)

しかし、この「特別な」というのが、厄介者で、ここには、金星人が移住してきただの、レプタリアン(爬虫類人)が移住してきただの、ルシフェルが物質界の王だの、エル・カンターレが霊性進化の真の指導者だの、霊界は七つの段階があるだの、とにかく○○なことばかりが肉付けされてしまう。

確かにこういった話は私も信じかねない。というのも、これらの話が非常に二重の意味で「面白い(笑)」からである。

これらの「面白い(笑)話」に共通することとしては、全てが「どっかで聞いたような話」であることがある。つまり、これらの話は、昔ばなしや神話、経典に収録されているような話、または一度は流行った都市伝説などが元ネタとなっているのだ。この特徴は、マニ教の特徴に非常に似ているように思う。また、もう一つの特徴は、言うまでもないかもしれないが、全てが見えないことや未来のこと、つまり「オカルト」の分野が話の対象となっていることである。

 

霊性進化論はなぜ受け容れられるのか

次になぜ、この霊性進化論が出てきて、しかも多くの人に受け入れらたかと言うと、背景として、宗教的考え方と、科学的考え方の間にある葛藤があったと著者は主張する。

というのも、上にも明らかなように、科学の発展、また「進化論」によって、キリスト教が築いてきた世界観が一気に壊れてしまったからだ。

地球は宇宙の中心でないし、人間は神に作られた特別な存在でなく、サルの亜種だった。このような事実は、今までそうでないと信じてきた人々にとって、到底受け入れられるものではないであろう。

だから、この間隙を折衷する立ち位置にあるのが、「霊性進化論」なのだ。

 

霊性進化論の特徴

また、「霊性進化論」の特徴として、善(霊性進化)と悪(霊性退化)の二項対立論がある。簡単にいえば、霊的に進化した霊的人間と、この霊的進化を邪魔する人間がいるという、極めて単純な善悪・優劣の二項対立的考え方だ。

ここまでこれば、このような考えが、ナチスヒトラーユダヤ迫害・ゲルマン最高思想、または、麻原オウムのシャンバラ(理想郷)とポアという考え方に簡単に繋がることは言うまでもなかろう。この関連で、ナチスヒトラーが受け入れられたのは、こういった思想風土が既にドイツにはあった、と書かれていたがそれはその通りだろうと思った。

とにかく、この宗教的危険思想と、霊性進化論の関連性をこの著者は訴えているのである。

ただ、ひとつ課題としては、この著者の方が、キリスト教を本来の研究分野にしていることもあって、世界の全てが「キリスト教歴史観」から成り立っているかのように論じていしまっていることがある。この辺は課題であると言えよう。

 

本の構成

第一章 神智学の展開
ブラヴァツキー、シークレット・ドクトリン
チャールズ・リードビーダー
クリシュナムルティ⇒後に決別)
ルドルフ・シュタイナー人智学に分派)

第二章 米英のポップオカルティズム
エドガー・ケイシー(催眠術を使った奇跡療法)
ジョージ・アダムスキー(UFO)
ホゼ・アグエイアス(マヤ暦)
デーヴィッド・アイク(レプタリアン)
ニューエイジ思想

第三章 日本の新宗教
オウム真理教
GLA幸福の科学

引用されがちなオカルト経典
シオン賢者の議定書
ルシフェル
ヨハネの黙示録
チベット密教

ということになる。

話自体は面白い(笑)ので、ファンタジー小説などのネタとして、上に出した人の著作を読めば、かなり役に立つのではないかと思う。実際に、ここのどっかから話のネタを持ってきていると思われる作品もあるように思う。

 

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『合衆国再生―大いなる希望を抱いて(オバマ著)』(ダイヤモンド社)を読んで

かなり分厚い本で、読むのにかなりの時間がかかった。

今年で、オバマ大統領の任期(二期八年)も終わりということで、この大統領選前に本人の書いた本を読んでみた。オバマ氏の考えていたことが、どれほど実行されたのかを確かめるためだ。

なんでもそうであるが、言うことは簡単であるが、やることは難しい。

ちなみに、合衆国憲法においては、初代大統領ワシントンの慣例に従って、大統領は二期八年までと明記されている。たまに、なぜオバマは立候補しなかったのか?という意見を見るので、ここに明記しておく。

また、本のタイトルは、The audacity of hope で、『合衆国再生』というのは日本向けのタイトルであり、単語の意味に忠実になると、タイトルは「大胆さ、希望のね」みたいな意味になる。

オバマ氏はなぜ大統領になれたのか

それで、まず、アメリカ大統領というのは、世界で最も有名な人であると思う。
オバマ氏が、どうして、この世界で最も有名な地位に就けたのかということであるが、この本を読んでいて、もちろん本人の実力もあるにしても、かなり運が良かったんだろうなぁとしか思えなかった。
例えば、日本の選挙制度などでは、オバマ氏が首相になることはあり得ない。日本で首相になるには、党の総裁になる必要があるが、これは権力ガチガチの派閥的手腕や血筋などが必要で、オバマ氏のような若手かつポッと出の人がそれになれる可能性はかなり低いからだ。
そんなわりと有利な条件の中、時代のニーズ、何らかのご縁、また、恐らくこの本が売れたこと、オバマ氏の演説がうまくて、人の心を捉えるものであったこと、などが重なったのが、オバマ氏が大統領になれた理由だと思う。

 

この著書から読み取れるオバマ氏の人間像

次に、オバマ氏がどんな人であるかと言えば、ロダンの考える人である、また、中国古典風に言えば、君子として間違いない。
ロダンの考える人、については、オバマ氏が、あの格好でしかめっ面をしている所をご想像いただきたい。かなり似合わないだろうか?実際に、本を読んでみても、そういったしかめっ面をして、いろいろ考えていることが非常に伝わってくる本だった。いたるところに、人間らしい葛藤が見える。
君子として間違いない、というのは、この本がオバマ氏一人によって書かれていないことがその証拠である。翻訳文であるのだけど、文体や言い回しから、明らかに別の人が書いたのだろうなぁというところがある。また、事実、あとがきには、10人以上の協力者の名前が連ねられいる。かなり異例であると思う。
しかし、これは、10人以上の人に、オバマ氏の考えがしっかりと理解されているということである。もし仮に、オバマ氏がタテマエと本音を使い分ける術策に長けた人であったら、どこかで食い違いが起こっているはずなのだ。つまり、オバマ氏は、至誠の人であるからこそ、多くの人の力を借りて、この一つの著書を仕上げることができたのだ。
また、これだけ多くの人の力を借りることができるということは、まさに、「師を多く取る者は王たり、友を多く取る者は覇たり」とも言うように、自分と対等か、あるいは対等以上の人の意見をよく聞いて、それを受け容れることができるということであり、この点でも君子と言える。

 

 

オバマ氏の思想的立ち位置

また、書かれている意見としても、二項対立的な考え方、つまり、「戦争賛成VS戦争反対」のような極論、あるいは、「あいつは人間的に悪党だVSあいつはいいやつだ」という考え方をしてない。「どちらの言い分も正しいだろう、しかし間違っている部分もある」という当たり前にして、最も重要な考え方をしている。私も、ネット上で、サヨクからはネトウヨだとイチャモンをつけられ、ネトウヨからはサヨクだとバカにされるようなことがあるが、まさにこういった「賛成派、反対派のどちらからも批判されそうなこと」を主張していて、この点でも非常にすばらしいと思う。

本の書き方としては、上に書いたように、恐らく多くの人と協力して書いたものなのだろうけど、途中途中に、小説のような情景描写があり、また、スキャンダルの内側や、知られざる連邦議会の実情などもあり、こういった点で、読者を飽きさせない工夫がしてある。また、かなり文学的にうまくまとまった章もあり、この意味でも、一人で書いたものではないだろうなと思った。

 

オバマ氏は初志貫徹できたのか

最後に、オバマ氏が自分の意見を実行できたのか、というと、かなりこれは微妙である。というのも、賛成でも反対でもないから、それが時代の流れでそうなったのか、オバマ氏の手腕でそうなったのか、判定ができないからである。イラク戦争撤退は、この本でも明言されており、実行されているので、これは明らかに評価できる。

 

アメリカの内情がよく分かる

そういった意味でも、オバマ氏の政治的手腕を評価する本というよりも、日本人としてみれば、アメリカの内情がよく分かる本として読む価値がある。
ちなみに、アメリカからすると、日本とヨーロッパ諸国は同列で語られているのが、なんか新鮮であった。あと、同じような問題は抱えている反面で、アメリカ特有の問題が多くあり、アメリカと比べて、日本はかなり恵まれているとも思った。

ちなみに、今、オバマ氏は、大統領退陣の際、しばらくは著書を書いたりして、家族との時間を大切にしたい、と言っているので、また著書が出るものと思う。個人的には楽しみにしている。

 

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『小さな出版社のつくり方』(猿江商會)を読んで

面白かった。
本自体の装丁としても、カバーは半透明のものでデザイン性に優れ、紙の質も明らかに良く、クオリティは高いと言える。

内容として、ハウツー本ではなく、12の「小さな出版社」のできた経緯や、その後の経営状況を取材し、まとめた本であった。
だから、一言目の感想が、いい本だったとかいうのでなくて、面白かったというものになっている。

 

一般の人には若干読みにくい

ただ、業界用語とかの説明の度合いや、書き方や編集のやり方、タイトルからしても、「既に編集や本作り、あるいは本の販売に関わっている人」が、読者層としてターゲットになっていると思われる。少し工夫して、「一般の本が好きな人や本に興味がある人」もターゲットに入れていても良かったのではないかと思う。
とはいえ、この本を読んでいれば、そのようにターゲットを絞った理由もいろいろな意味で分かるので、批判は込められていないし、業界用語を知らない人でも楽しく読める程度であるとは思う。

 

ライバル多く書籍の売上はダダ下がり

また、ターゲットが限定されているということとも関係があるのだけど、そもそも、雑誌を含めた書籍に関する売上は、1990年台後半の2.6兆円を境に年々落ちており、現在では1.5兆円となっている。この著者の方は、売上減少の主な要因を生産年齢人口の減少としているけど、これは私は正確ではないと思う。
というのも、『日本のマスメディア』というNHK出版の本を読むと理由は明々白々で、本を読む以外の娯楽がそのころから増えているのだ。つまり、レンタルビデオ、テレビ、ゲーム、ネットなど、本を読むことに置換しうる娯楽が、その頃から急激に普及したという事実もある。だから、本を売る(もちろんマンガも含めて)ということを考える時には、レンタルビデオなどの映画作品、あるいはゲームすらも、ライバルとして意識しなければならない。

 

小さな出版社の価値

このようなわけで、出版業界が厳しくなるのは当然で、厳しくなれば攻めることはできず守りとなり、仕事内容も保守的となって、出版社に勤めている人も、面白い仕事や自分のやりたい仕事はできなくなるし、当然のように本自体もつまらなくなる。だからこそ、この本に登場してくるような小回りの効く小さい出版社というものにいろいろな価値が出てくる。

 

出版業界特有の問題

しかし問題はそれだけではない。出版業界特有の問題も、この本のひとつのテーマとして書かれている。それは、取次(問屋)を挟んだ出版業界特有の流通システムだ。この問題は、特に最近の新書の陳腐化とも深い関係があるのだが、なぜその流通システムに問題があるのかは複雑なので、知りたい方はこの本を読んでいただければと思う。

 

この本で紹介されている出版社

ちなみに、この本で紹介されていた出版社は、アルテスパブリッシング、鉄筆、羽鳥書店、悟空出版、ブックエンド、小さい書房、コルク、SPBS、トランスビュー、ころから、共和国、猿江商會(この本を出版している会社のため簡略)となっている。
最初にも書いたように、面白いし、本の装丁もクオリティが高いので、ぜひとも手に取って読んでいただければと思う。(ちなみに、私は図書館で借りた。)

 

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