翻訳本 三略 少しずつ紹介3 「主将之法」
上略 其ノ一 剛柔強弱天道自然
《主将之法》
《剛柔強弱 その一》
《天地流転》(⇐ここまで公開します)
《微守保生》
《剛柔強弱 その二》
《四肢腹心》
《天道自然》
《主将之法(しゅしょうのほう)》
◆書き下し文◆
夫(そ)れ主将の法は、務(つと)めて英雄の心を攬(と)る。有功を賞祿(しょうろく)し、衆に志(こころざし)を通ず。
故(ゆえ)に衆と好を同じくして、成らざる靡(な)し。衆と悪を同じくして、傾かざる靡(な)し。
国を治め家を安んずるは、人を得るなり。国を亡ぼし家を破るは、人を失うなり。気を含むの類(たぐい)は、咸(ことごと)く其の志を得んことを願う。
◆現代語訳◆
そもそも、君主や将軍が己の法とすべきことは、出来る限り英雄の心を手中に収めることだ。功績有る者に賞と禄(ろく)(役職と給料)を与え、民衆のこうしたいと思う志(こころざし)に通じることである。
だから、民衆と美事を同じくすれば、必ず成し遂げることができる。民衆と忌(い)み嫌う事を同じくすれば、必ず(民衆の心もこちらに)傾く。
国を治めて家を安んずるということは、人を得るということである。国を滅ぼして家を破るということは、人を失うということである。(また、賢人を得れば国を治めて家を安んずることもでき、賢人を失えば国を滅ぼして家を破ることになる。このように、やり方次第で得ることも失うこともあるが、)気のあるものは、みなすべて、志を得ることを願っているのだ。
◆解説◆
この『三略』の始めに、「主将の法」が書かれているのは、この三略が、君主や将軍向けに書かれているからである。
また、「靡(な)し」は「靡(なび)く」とも読み、「靡(な)し」と読むのは『三略』中ここだけである。現在は、喜怒哀楽の四情が感情の全てのような言われ方もあるが、人の感情で最も鋭敏なものは、実は好悪の感情である。この好悪の感情を読み取ることができれば、人々の心を「なびかせる」こともできるという暗示がある。ただし、「衆と悪を同じくして、傾かざる靡(な)し。」を「民衆と同じになって悪事をしていれば、国は必ず傾いてしまう。」と読む説もあり、これはこれで正しい。
次に、「気」とは、当時独特の概念であり、『孟子』には、「志とは気を率(ひき)いるものであり、気とは体を統(す)べるものである」とある。また、『荀子』には「水火には気あるも生なく、草木は生あるも知なく、禽獣(きんじゅう)には知あるも義なし。」とある。この記述からも分かるように、当時の気は、少なくとも、現代の、アニメなどで可視化するような気や、スピリチュアルのオーラとは全く違ったものであり、もっと現実的なものである。志とは、こうしたいという根本的な思いや意志であり、動物や鳥ならば、平穏無事に生きることがその志である。
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